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新IT大捜査線 特命捜査 第25号 IT導入で変わるチラシの世界「電子チラシは主婦の買い物スタイルをどう変える?」
 
  新聞を取っていなくてもエリア外のチラシを閲覧可能
 
山岸部長
凸版印刷株式会社 情報コミュニケーション事業本部 メディア事業開発本部 第一部 部長 山岸祥晃(よしあき)さん。

家計を切り盛りする主婦にとって、日々の買い物はかなり大変な仕事だ。買わなければならない物は山ほどあるし、同じ物を買うなら少しでも安い方が良い。財布を預かる主婦にとって大切なのは「今日は○○スーパーで鮭の切り身が安い」といったタイムリーな特売情報。特に最近はどんどん物価が上がっているので、そうした情報に敏感になっている人が増えている気がする。
そんな主婦が頼りにする最大の情報源が、新聞の折り込みチラシだ。「新聞はあまり読まないけれど、チラシには全部目を通す」という人は結構多いはず。中にはチラシの情報からその日の買い物ルートを決定し、タイムセールを考慮に入れて移動するという主婦もいるらしい。それ程ではなくても、近所の数店舗を比較して「今日はここにしよう」と決める人は多いと思う。
スーパーなど販売店側にとっても、昔から折り込みチラシは重要な販促ツールになっている。何といっても新聞購読者には必ず届くわけだし、配布エリアもかなり細かく設定できる。紙なので消費者の手元に残りやすいという利点もある。


Shufoo!トップメニュー
Shufoo!のトップメニュー。地域の検索は郵便番号・住所・駅名の3方法の他に、インターネット地図情報検索サイト「マピオン」と連動したエリア検索も可能。
デジタルチラシ画面
電子チラシを表示したところ。全体のウインドウサイズは固定されるが、チラシの拡大・縮小などは自由自在。右側にはリアルタイムの特売情報などが表示される。

そんなチラシの世界を、ITによって大胆に変えようとしているのが電子チラシだ。簡単に言ってしまえば“インターネットを利用して、紙のチラシをそのままパソコン上で閲覧できる”ようにしたもの。スーパーチェーンなどが独自に展開している例もあるが、人気を集めているのはさまざまなお店のチラシを集約して掲載しているポータル的な電子チラシサイトだ。今回は、その中でも国内最大級の規模を持つ「Shufoo!(シュフー)」を取材した。このサイトを運営しているのは凸版印刷株式会社。と聞けば、電子チラシが誕生した背景がなんとなく見えてきませんか?

まずは電子チラシがどんなものかを知るために、Shufoo!のトップページを開いてみよう。手順は検索ウインドウから自分が住んでいる地域を選ぶだけ。登録されているお店の一覧がずらりと並び、チラシ情報がある場合は店名が太字で表示される。クリックすると、別ウインドウでそのお店のチラシが画面上に表示される仕組みだ。見てみると、新聞の折り込みチラシと全く同じ。拡大・縮小・表裏の切り替え・表示部分の移動が自由自在にでき、印刷やPDFファイル形式でのダウンロードも可能。ほとんどのお店が数種類のチラシを提供しており、食品・日用品・衣類・スポーツ用品・医薬品など、業種も多種多様だ。
試しに自分が住んでいるエリアを表示してみたところ、スーパーやディスカウントストアに関しては、その8割ほどが網羅されていた。「ほう。これなら紙のチラシの代わりになるかも」と感心する。で、すぐに気が付いた。このサイト、自分が住んでいるエリアだけでなく、登録さえされていれば日本全国のお店のチラシを見ることができる。なるほど、これが電子チラシ最大の特徴なのかも。Shufoo!で情報を入手すれば、隣町のスーパーや職場の近くでも特売品を買うことができるわけだ。

「確かに(笑)。折り込みチラシは新聞の配達エリア内に限定されますからね。最近は人の行動範囲が広がっていますから、エリアを越えたチラシへのニーズが高いんです」と笑顔で教えてくれたのは、凸版印刷株式会社情報コミュニケーション事業本部メディア事業開発本部第一部で部長を務める山岸祥晃(よしあき)さん。この人がShufoo!の仕掛け人だ。
山岸さんによると、Shufoo!がスタートしたのは2001年の8月。背景には、長く営業畑で折り込みチラシに関わってきた山岸さんの実感があるという。「クライアント(スーパーや小売店)にとって、新聞の折り込みチラシが重要な販促ツールである事は確かです。でも、その新聞の購読率が徐々に落ちてきているんです(一世帯あたりの購読部数は1997年の1.18部から2007年の1.01部に減少──日本新聞協会のデータより)。また、クライアント自身も折り込みチラシに対する効果を疑問視するようになりました。せっかく作った自分たちのチラシを、消費者は本当に見てくれているのかと」

2001年といえば、ちょうどADSLが普及の兆しを見せ始めた頃。やがて本格化するだろうブロードバンド環境を視野に入れ、山岸さんは現在のShufoo!のコンセプトをまとめ上げた。
「チラシを電子化することによって、消費者とクライアント双方の不満を解消できると考えたんです。消費者は新聞を取らなくても全国のチラシを見ることができ、会員登録(無料)すれば更に便利な機能が使えるようになります。一方、情報を提供するクライアントは有料ですが、チラシの他にも特売情報をリアルタイムで掲載・更新したり、その情報を音声や動画で効果的に伝える事ができます。そこから発展し、紙ではできなかったチラシの効果測定も可能になりました」
サイト名をShufoo!にしたのは、主婦の生活を助けることを念頭に置いていたから。サイトオープン当時から3年ほどは苦戦したが、大手スーパーチェーン2社が参加した2004年からは急速に規模が拡大。2008年2月現在で約300法人・1万店舗が登録し、月間閲覧回数は約5,000万回にものぼるという。

 
 
 
  主婦が頭を悩ませる“献立作り”をしっかりフォロー
 
「ちらしカタログ宅配便」
「ちらしカタログ宅配便」も利用可能。このアイコンがデスクトップに小さく現れる。
動画チラシ
チラシと一緒に、店内の活気をそのまま伝える動画を表示することもできる。
「Shufoo! OH!トーク」
タイムセールなどの特売情報を音声で読み上げてくれるお店もある。訴求効果は大きい。

Shufoo!を使ってみて驚くのは、従来の折り込みチラシでは考えられなかった、電子チラシならではの利便性を数多く実現している点にある。
例えば「ちらしカタログ宅配便」。これは、会員登録して好きなチラシを選んでおけば、そのチラシが更新される毎にパソコンに自動配信されるシステム。常駐型の専用ソフトをダウンロードして使うので、わざわざShufoo!のホームページまで見に行く必要がなくなる。折り込みチラシも向こうから自動的にやってくるようなものだが、さすがにお気に入りのお店のチラシだけを選ぶことはできない。

チラシそのもののインパクトも違う。チラシ自体は凸版印刷や他社が作っている折り込みチラシをそのまま電子化したものだが、それに付随して動画や音声のデータをプラスすることができるのだ。例えば、チラシの脇に店員が「いらっしゃい!」と元気よく呼びかけている映像を載せたり、急遽決まったタイムセールの情報を文字で表示するだけでなく、それを音声で読み上げることができる。
これは、折り込みチラシには望めなかった情報の即時性を可能にする機能でもある。お店の判断で、チラシに載せなかった商品が急遽安く売られる事は珍しくない。Shufoo!なら、店頭の様子をそのまま家庭の主婦に伝えることができるのだ。

だがShufoo!にはこれらの機能以上に、主婦の心を掴む巧みな仕掛けがある。それが、レシピ検索を中心としたユニークな連携機能(会員限定)だ。例えばあるお店がブロッコリーを特売品として売り出した時、その情報欄にあるブロッコリーをチェックすると、次の画面でブロッコリーを使ったレシピが一覧表示される。気になるレシピをクリックして詳細なレシピを表示させたら、「お買い物リスト作成」ボタンをクリック。すると、次の画面でその料理を作るのに必要な食材が一覧表示される。ここで自宅の冷蔵庫にない食材にチェックを入れると、特売品のブロッコリーを使った料理を作る際、足りない食材だけが最終的にリスト表示される仕組み。


「料理レシピ検索」トップ画面
「料理レシピ検索」のトップ画面。検索条件もジャンルや調理時間などさまざま。会員限定のサービスだ。

「ここまでやりますか」と感心していたら、最終的なお買い物リスト画面で「携帯電話に送信する」ボタンを押せば、あらかじめ登録しておいた携帯電話にそのリストを送信してくれるという。こうなると買い物の際に食材のメモを持参する必要すらなくなる。しかも事前に「好きな食材」「嫌いな食材」「マイ冷蔵庫(冷蔵庫の中にある食材)」を登録しておけば、レシピ検索の結果にそれらを反映させることができる。
これはつまり、今まで折り込みチラシを見ながら主婦が頭の中で考えていた献立作りを、Shufoo!が順序立てて代行してくれるようなもの。そう、Shufoo!を作る上で山岸さんが重視したのはこの部分なのだ。

「日々の買い物の主な目的は、料理に使う食材を買う事です。主婦の行動パターンを考えてみて下さい。多くの主婦はスーパーの店頭で特売品をチェックしながらその日の献立を決めているはずです。今日はハンバーグを作ろうと思ってお店に行っても、ミンチ肉が安いとは限りません。人参やジャガイモが安ければ、やっぱり今日はカレーにしようと思うかもしれない。反対に家を出る前にその日の特売品が分かっていたら、献立作りに余裕が出てきますよね。Shufoo!ではその仕組みを作りたかったんです」

「レシピ」画面例
「レシピ」の一例。ここからお気に入りレシピに登録すれば、繰り返し使うことができる。

凸版印刷が行ったアンケート調査によると、ほとんどの主婦が毎日の献立作りに頭を悩ませている事が分かったという。主婦の願いは「安い食材で作りたい」「冷蔵庫にある余り物を使い切りたい」「(アレルギーなどのために)食事制限しなければならない子供のために食材を選びたい」の3つ。Shufoo!のレシピ検索は、この3つのニーズをすべて満たしている。特に評価が高いのは「嫌いな食材」を登録し、それを使わないレシピを検索できる事。最近増えている子供のアレルギーなどの対策も食事を作る人にとって、重要な問題なのである。

このレシピ検索、Shufoo!訪問者の18%が実際に利用している。上記の機能をフルに利用している人はさすがに少ないが、レシピ一覧まではかなりの頻度で使われているらしい。「そこそこの経験がある主婦は、レシピのヒントだけで充分のようです」と山岸さん。逆に言えば、新米主婦にとってこれほど心強い味方はないかもしれない。
他の電子チラシサイトにもレシピ機能はあるが、Shufoo!ほど多機能で利便性の高いものは見当たらない。電子チラシサイトのどこに重点を置くかは運営会社によって様々だが、毎日の献立作りに悩んでいる主婦の立場からすれば、Shufoo!のコンセプトは素直に納得できるものだ。

 
 
 
  「顧客の反応が見える」から、情報提供側にとってもメリット大
 
リアルトレンド画面
クライアントだけが見られるリアルトレンド画面。クリック数の多い部分が濃い赤色で表示される。

ゲストとして電子チラシ機能だけを使っても買い物に役立つし、会員登録すれば毎日の献立作りを支援する多彩な機能が使える──確かにShufoo!は主婦の生活を助けてくれる便利なツールだ。しかも費用は一切かからない。では、コストを負担している情報提供側にはどんなメリットがあるのだろう? 新聞の折り込みチラシを配布し、更にそれを電子化してShufoo!に掲載するメリットはどこにあるのだろうか?
まず考えられるのはコストの問題だ。折り込みチラシの製作コストは1枚あたり3〜4円と言われている。週に1回数万枚単位で配布することを考えれば、小売店にとってはかなりの負担になる。それに対し、Shufoo!の電子チラシ掲載基本料は、チラシの本数や種類によって異なるが、1店舗あたり月額約2万円。コストは折り込みチラシの3%ほどに過ぎない。
前述した、電子チラシの脇に掲載するタイムリーな情報提供も魅力の一つだろう。クライアントは直接サーバにアクセスする事によって、他店の価格情報を横目で見ながら臨時の特売セールやタイムセールを打つことができるのだ。

もうひとつ、Shufoo!にはクライアントにとって魅力的なサービスがある。それが、2年前から実装している「リアルトレンド」(サービス利用料は月額1万円)。これはサイト利用者がクリックした電子チラシ内の位置、クリック履歴、閲覧時間などのデータによって電子チラシの効果を測定するログ解析機能で、電子チラシサイトでは初の試みとなる。
具体的には、サイト利用者がクリックしたチラシの位置データをサーバに記録し、クリック数の多い部分を濃い赤色で表示するようになっている。赤の濃淡を見ることで、チラシに掲載したどの商品が最も興味を持たれていたかが判断できるのだ。他にも、エリア毎のアクセス数や時間別のアクセス推移数など、目的に応じて様々なデータを抽出することができる。

山岸さんは、リアルトレンドのメリットをこう語る。
「クライアントからは、折り込みチラシの効果測定を正確に行いたいという要望が昔からありました。リアルトレンドの導入によって、クライアントは開店前に人気商品の陳列を増やしたり、追加の発注を出すなどの対応が可能になります。もうひとつのメリットは、従来の折り込みチラシでは分からなかった“顧客が興味を持ったが、買わなかった商品”が分かること。世間では売れているのに自店では売れないのはなぜか。この情報が、店内の陳列を変えたり、POPを作り替えるなどの工夫を生む事につながるのです」

利用者の興味や動向を正確に把握し、それに沿った販売促進戦略を打ち出す。また、クリック数と実際の購買データを比較し、店頭で何が足りなかったのかを分析して改善を図る手がかりにする──チラシは、電子化することで多機能なマーケティングツールとなった。クライアントにとってみれば、今までおぼろげだった(チラシを見ている)顧客の顔がはっきり見えてきた、という感じだろうか。

 
 
 
  折り込みチラシ市場が縮小しても、新聞社との共存は可能
 
「電車 DE しゅふー!」トップ画面

2007年10月からは、全国の中吊り広告を閲覧できる「電車 DE しゅふー!」もスタート。

「インターネットアクオス」

シャープの液晶テレビ「インターネットアクオス」にはShufoo!のチャンネルがプリセット済み。

Shufoo!の取材中、一つ疑問に感じていたことがある。それは、「新聞社の反発はなかったのだろうか?」ということ。凸版印刷にとっては、従来の折り込みチラシが減っても、いつか電子チラシが大きな利益を生み出し、紙のチラシを補完するまでに成長すれば問題はない。だが電子チラシが伸びて折り込みチラシの市場がこのまま縮小していくと、まず新聞販売店が困るはず。今の新聞販売店の経営は、折り込みチラシからの収入が支えているとも言われているのだ。新聞販売店が困ると、当然、新聞社も困る。この点に関しては、山岸さんも相当苦労したようだ。
「最初の3、4年は全国の新聞社さんに呼ばれてこっぴどく怒られました。勉強会を開いてShufoo!の内容を説明したら、最後には『困ったものを作ってくれたなあ』と(笑)。考えてみれば当社も新聞社さんもペーパーオリエンテッドな会社。共に電子化に対応しなければこれからは生き残れません。そこで提案したんです。我々が開発した電子チラシのエンジンを組み込んで、新聞社独自の電子チラシサイトを作りませんかと」

その結果誕生したのが、北海道新聞が運営する「道新Shufoo!」と、東北の地方紙・河北新報が運営する「河北Shufoo!」。それぞれのサイトに登録されているクライアントは両新聞社が集めたものなので、当然、利益もそれぞれの会社に落ちる。それぞれの地方の利用者はポータルとしてのShufoo!を使ってもいいし「道新Shufoo!」や「河北Shufoo!」を使っても構わない。地方紙のShufoo!はエリア内のチラシ情報しか閲覧できないが、チラシの内容はポータルとしてのShufoo!と変わらない。
凸版印刷も、自分たちだけで日本全国のチラシを集めようとは考えていないようだ。この仕組みで地方紙との共存を図ると共に、電子チラシを切り口により多くの地域密着情報を収集し、地方エリアと全国をネットワークで結ぼうとしている。また全国紙との提携も図っており、例えば「日経千里コンシェルジュ」というサイトでは、サイト内に組み込んだ形で電子チラシサービスを展開している。

こうした提携は、そのまま電子チラシ市場の規模拡大につながる。2008年3月からは、凸版印刷と提携したYahoo!JAPANが「Yahoo!チラシ情報」を提供。国内最大ポータルとの提携が、Shufoo!の、ひいては電子チラシ全体の普及に弾みを付けるかもしれない。
山岸さんに当面の課題を尋ねてみた。「登録店舗数を増やすことですね。大手スーパーチェーンはほとんどカバーできましたが、地方の小売店や商店街などは、まだまだこれからですから」とのこと。この部分の掘り起こしが完了した時、電子チラシの認知度は今よりずっと上がっているに違いない。

電子チラシの世界がこの先どこまで広がるのか予想するのは難しい。Shufoo!は凸版印刷の関連会社であるインターネット地図情報検索サイト「マピオン」との連携や、イベント性を取り入れた新サイト「電車 DE しゅふー!」の提供など、サービス自体の拡充を頻繁に行っている。また、露出メディアをパソコンだけでなくテレビにまで拡大し(「インターネットアクオス」にチャンネルプリセット)、更には携帯電話へのチラシ配信も準備中だという(一部他社は導入済み)。
Shufoo!に限らず、電子チラシを手がける各社とも、今はまだその可能性を試している段階なのだ。さまざまな試みの中から、私たちにとって本当に便利で使いやすいサービスだけが残っていくに違いない。その時、果たして新聞の折り込みチラシはどうなっているだろうか?

 

取材協力:凸版印刷株式会社(http://www.toppan.co.jp/

 
 
神山恭子 0012 D.O.B 1966.7.3
特命捜査 第25号 IT導入で変わるチラシの世界「電子チラシは主婦の買い物スタイルをどう変える?」
イラスト/小湊好治 Top of the page

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