タクシーのIT化はどこまで進んでいるのだろう?
昔のタクシーは乗務員がマイクを使ってオペレータ(配車係)と頻繁に無線でやりとりしていたけれど、そんな光景はもう遠い過去の話。最近のタクシーは、無線で会話をしている様子すらほとんど見られない。その代わり、乗務員はダッシュボードに据え付けられたカーナビを見たり、小さな機械のボタンを押して何やら操作している。恐らく、背後ではかなりのITが導入されているに違いない。一体どんな仕組みになっているのだろう?
|
日本交通本社前。この車両は有資格者のみが乗務する「黒タク」。 |
今回の調査対象は、首都圏で約1800台、グループ会社を合わせると約3000台ものタクシーを運行している日本交通株式会社。首都圏在住の読者の皆さんなら、黄色に赤い帯の一般タクシーと、黒一色の「黒タク」でお馴染みだろう。同社はグループ売上高日本一を誇るだけでなく、ハード面で新しいシステムを積極的に導入する事でもよく知られている。最新のIT事情を優しくレクチャーしてくれたのは、総合営業部営業統括課課長の金田隆司さん。そもそも、なぜ乗務員が無線を使っているように見えないのだろう?
まずはその疑問をぶつけてみた。
「無線は使っていますよ(笑)。ただ、今はもう乗務員とオペレータが会話することはほとんどありません。その必要がないんです。最大の理由は、当社が2005年1月から稼働させている、デジタル無線を利用したGPS-AVMシステムにあります」
|
日本交通株式会社 総合営業部営業統括課課長 金田隆司さん。 |
ここで、タクシー無線と配車システムについて少し説明しておこう。日本で初めてタクシー無線(アナログ方式)が運用されたのは、1953(昭和28)年。タクシーの配車システムはこの無線をベースに、効率向上を目指して年々進化してきた。昔は顧客からコールセンターへ電話がかかってきたら、オペレータが無線で全タクシーへ一斉に呼びかけ、顧客に一番近い場所にいると思われるタクシーを現場に向かわせていた。そのためには、オペレータは地図を見ながら「お客様は○○という店の前でお待ちだが、その前の道路は一方通行だから△△道路を右折してから目的地へ向かえ」といった指示を乗務員に出さなければならない。だからオペレータは地理に明るくなければ務まらなかったのである。もちろん、今はそんなやり方はしない。
効率良く配車するためには、全タクシーがどこを走っているかを正確に知る必要がある。そこで1970年代に登場したのが、AVM(Automatic
Vehicle Monitoring=車両位置自動表示)システム。当初は車の位置を割り出すため道路上にサインポストという機器を設置していたが、90年代に入ると、カーナビでお馴染みのGPS(Global
Positioning System)で車の位置を正確に割り出すGPS-AVMシステムへと進化した。
日本交通が2005年1月まで稼働させていたのは、アナログ無線+GPS-AVMという形の配車システム。コールセンターに顧客から電話がかかってくると、オペレータはモニタを見ながらGPS-AVMが自動的にピックアップした車両を確認。それから乗務員と音声通話を行い、口頭で顧客情報や行き先などの指示を伝えるという仕組み。実はここに効率改善の余地があった。
「音声通話を行うと、どうしても時間的なロスが避けられません。情報伝達をアナログ無線のデータ通信で行う方法もありましたが、秘匿性や通信効率の点で問題が残る。この問題を解決したのがデジタル無線だったんです」
|
デジタル無線機は車内ではなくトランクに設置されている。 |
2003年末に、タクシー無線のデジタル化が制度化された。デジタル化の理由は、限りある電波の周波数を有効利用するため。タクシー無線がデジタル化すると、伝送速度が高速化するだけでなく、秘匿性が高くなり、データ通信量もアナログの約4倍に拡大する。地上デジタル放送によってテレビが高画質化・多チャンネル化したのと同じ理屈だ。
日本交通は2005年1月から、デジタル無線・GPS-AVM・カーナビからなる配車システムを全車に導入。現在、オペレータから乗務員への音声通話は、基本的には一切行っていないという。
「お客様のお迎え場所情報は、コールセンターから乗務員へデータ送信しています。タクシー内ではAVM操作表示ユニットに文字で表示すると共に、カーナビ画面にも自動的に旗が立って場所が分かるようになっています。結果的に、音声なら20〜30秒かかっていた情報を、1秒もかからず送信できるようになりました」
今、都市部を走るほとんどのタクシーにはカーナビが設置され、GPS-AVMユニットが接続されている。日本交通のように必要情報の伝達をデータ通信で行っている会社もあれば、デジタル無線を使いながら音声通話を併用している会社もある。タクシーの台数がそれほど多くなければ、音声通話による時間のロスはそれほど問題にならないようだ。
|