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新IT大捜査線 特命捜査 第34号 気象情報を利用したエアコンの最適設定「我慢しないで省エネルギーを実現」
 
  消費電力を20%削減した「省エネ当番」
 
河口部長

ダイキン工業サービス本部、河口真一部長。

松村課長

ダイキン工業サービス本部、松村修課長。

地球温暖化問題は今や、小学校の授業でも取り上げられるような、世界的に深刻な問題だ。その地球温暖化対策で、必ず取り上げられるのが暖房や冷房。何しろ、オフィスで消費されるエネルギーのうち約28%を空調が占めているので、エアコンの温度設定でかなりの省エネになることは確かだからだ。
オフィスのエアコンの設定温度を夏は28度に、冬は20度にしようということが、環境省からも推奨されている。だが、この設定温度、正直なところ快適な設定とは言い難いというのがオフィスワーカーの本音ではないだろうか。クールビズ、ウォームビズといったファッションを試みても、どこかに「我慢」が付いて回る。もっと賢く、エネルギーを節約し、CO2を削減する方法はないかと、エアコンのトップブランド、ダイキン工業を訪ねた。

ダイキン工業は、冷媒開発から空調機開発までを行う、世界唯一の空調総合メーカー。業務用のエアコンでは日本でNo.1のシェアを持ち、家庭用でもトップクラスのシェアを持つ、文字通りエアコンのトップランナーだ。
そのトップランナーがITを活用して省エネを実現できるサービス「エアネットII」を提供するという。仕組みや効果について、サービス本部の河口真一部長、松村修課長にお話を伺った。

「『エアネットII』についてお話しする前に、そのベースになっている『省エネ当番』について、まずお話しさせてください」というのは、松村さん。
「エアネットII」のサービスの中で、遠隔地にある監視センターから、各事業所のエアコンをチューニングし、省エネ効果を発揮させるという基幹部分を担っているのが、2006年から販売を開始した「省エネ当番」だという。

「省エネ当番」の基本的な仕組みは、天気予報などの気象情報を元に、遠隔地の監視センターから、一日一回データを送り、各事業所にあるそれぞれのエアコンの設定を変えることだ。これによって、省エネが可能になるというが、そんな簡単なことで省エネになるのかと思ってしまう。

「そもそもエアコンはこの10年間で省エネが各段に進み、消費電力自体、10年前に比べ約30%の削減ができました」と河口さんはいう。「それに加えて、『省エネ当番』を利用すると、更に約20%(合計約44%)削減することができるのです」
なぜ、遠隔操作だけでこんなことが可能なのか。ますます疑問は深まる。

 
 
 
  ユーザが我慢しない省エネ
 

松村さんは、「『省エネ当番』はユーザの“我慢による無駄”を排除しているからです」という。
“我慢による無駄”というのは、次のようなことだ。
例えば、ある日気温が上がり、暑いと思った人が、冷房の設定温度を下げたとしよう。次の日、気温は下がったがオフィスにいる人たちは、設定を変えるのが面倒なので、前日の設定温度で“我慢して”過ごしている。設定温度が高い場合にも、汗を流しながら我慢しているのだが、それだけでなく、設定温度が低くても寒さを我慢しているわけだ。

こうした我慢に対して、効果があるのが「省エネ当番」だ。
「我々は空調機メーカーですから、エアコンが効いていないと言われるのは、とても嫌なわけです。やはり、快適にしたい。そこできちんとエアコンを効かせるためにはどうしたらよいか、と開発したのが『省エネ当番』なのです」
「省エネ当番」の仕組みを、更に詳しく説明していこう。
まず、ダイキン工業の遠隔監視センターで、全国850ポイントの気象情報・予測を日本気象協会から入手。温度だけではなく、湿度も考慮し、これを元に各オフィスのエアコンのコントローラに、最適な設定を通知する。
「体感温度は温度だけでなく、湿度にも大きく影響されるので、この双方を微調整すれば、エアコンに使用するエネルギーを減らすことも可能です」と河口さんはいう。
こうした毎日の設定変更によって、ユーザは快適な温度で過ごすことができる。もちろん、体感温度には個人差があるし、オフィス内のレイアウトなどによっても場所ごとの温度は変わるので、設定通りでは満足できない場合もある。そうした場合には、ユーザが設定を変えることも可能だ。このシステムの優れた点は、その日の気温などから最適と思われるエアコン温度を設定し、ユーザの体感快適温度との差を事前に小さくしておいてくれるということだ。
これによって、各オフィスでは「前日の設定を我慢してそのまま使用する」ことがなくなり、結果的に、我慢しないのに、無駄が少なくなり、省エネを達成することができたというわけだ。
一方、各オフィスのコントローラからは、運転状況が監視センターに送られ、データとして蓄積されて、半年に一度、省エネ効果や運転状況がユーザにフィードバックされる仕組みだ。これによって、ユーザはエアコンの消し忘れや、過度の温度設定を把握することができる。

省エネ当番システム図

エアコンの運用状況や気象状況に合わせて、遠隔監視センターから、最適なエアコン制御情報を毎日提供する。

河口さんによると、実は、エアコンで最も多い無駄が「消し忘れ」なのだという。
「省エネ当番」では運転状況を記録しているため、「消し忘れ」と思われる運転結果を把握することができる。実際には、徹夜で作業していた人がいたかもしれないが、どの部屋のエアコンが長時間運転をしていたかというデータをオフィスにフィードバックし、認識してもらうことの意味は大きい。最近のオフィスで、一定の時間になると、エアコンを止め、残業をする場合には、申請してエアコンを入れてもらうところが多いが、これは「消し忘れ」を防止するためのもの。
オフィスワーカーの評判はあまり良くないが、こうした地道な努力をしないと、なかなか消し忘れをなくすことは難しいのだ。

「省エネ当番」の導入による効果について見てみよう。大阪の遊技場では6ヶ月間で、空調の消費電力を約11%削減。電力会社がメータが壊れたのではないかと調査に来た程だという。
また、人工透析を行うクリニックでは、以前は透析を受けている患者さんから「寒い」「暑い」といった不満の声が多かったが、これがなくなり、しかもピーク電力を定格の70%に抑制することに成功した。
つまり、「我慢しなくても」省エネが実現できたのだ。

 
 
 
  サポートサービスをパッケージした「エアネットII」
 

「省エネ当番」は、1日1回のバッチ処理でデータのやり取りをしているが、これを更に24時間365日監視し、最高の運転効率を維持し、トラブルを未然に防ぐサービスを提供する「空調設備メンテナンスシステム」が2008年10月から販売された「エアネットII」だ。
「エアネットII」では、遠隔地チューニングの「省エネ当番」の機能に加えて、(1)遠隔地からコントローラを監視し、故障を予知する機能(2)年4回の現地点検と故障時の2時間以内の緊急対応(3)15年間の修理費用無償(4)初期性能からの乖離をレポートする性能検証サポート機能(5)ビル衛生管理法対応点検といったサービスをパッケージしている。

順に説明していこう。

(1)故障の予知
エアコンの故障では、エアコン本体が故障する前に、エアコン本体に付いているサーミスタというセンサーが故障する場合がほとんど。このサーミスタが故障してもエアコン自体は普通に稼働しており、ユーザが気がつくことはほとんどない。ところが、このサーミスタが故障することによって、エアコン本体が異常運転を繰り返し、最終的には本体が故障してしまうという。
そこで事前に、サーミスタの故障を察知し、取り替えてしまえば、エアコン本体は故障しない。しかも、このサーミスタの値段は50円程度なのだという。機器を長持ちさせることが省エネにつながるのは言わずもがなだろう。
「エアコンのコントローラは、パソコン並みの機能を持っており、データを解析すればサーミスタの故障を感知することができます。これを即座に取り替えることで、大きな故障を防ぐことができるのです」
ユーザ側のコントローラは、1台のコントローラで100台のエアコン本体を制御することができる。通常は、定期点検の際に、作業員が持参したパソコンをコントローラにつなぎ、故障を調べる。ところが、「エアネットII」では、コントローラと遠隔地にある「エアネットコントロールセンター」を公衆回線で結ぶことで、データを解析し、本体の故障を予知することができるのだ。

(2)年4回の現地点検と故障時の2時間以内の緊急対応
現地で目視しないと分からないことはもちろんあるが、コントローラ経由での点検は公衆回線によって既に行われているので、短時間で点検を終了することができる。大幅な省力化が図られたわけだ。故障自体がほとんど発生しないのだから、緊急の対応もスムーズに行うことが可能だ。

(3)15年間の修理費用無償
実は「エアネットII」より前に、1993年に遠隔監視の「エアネット」で故障予知を、更に98年には10年間の修理費用無償を実践してきた。サンプル例は少ないが、既に発売から15年の実績があり、ユーザからの要望もあり、オプションで10年を15年に延長することとした。

(4)初期性能からの乖離をレポートする性能検証サポート(コミッショニングサポート)機能
空調設備に関するレポートを必要に応じてWeb配信し、データを「見える化」にすることで、コンサルテーションやサポートを適切に行う。ユーザも自社の空調の実体を知ることで、省エネ化を更に進めたり、空調の改善計画が立てやすくなる。

(5)ビル衛生管理法対応点検
2003年4月に改正施行されたビル衛生管理法に対応し、エアコン室内機の点検、清掃を実施する(オプション)。

こうしたサポートサービスを含んだサービスが「エアネットII」だ。
「適正運転の範囲を越えた場合、その都度遠隔地から無理やり、電源を切ったり温度を下げたりすることも可能なのですが、消し忘れと思ったのに、実は働いている人がいたり、その日は暑がりのお客さまがいたという場合もあるので、こちらから無理に制御することはしていません」
データから見て、消し忘れと思われても、強制的に電源を切ることまではなかなかできないのは、仕方のないところだ。
だが、ユーザの意識を高め、少しでも省エネを推進していこうという意識付けになることは間違いない。

エアネットIIシステム図

エアネットIIは、省エネ当番の機能に加え、故障予知、運用改善、性能検証、修理費無償などのサービスをパッケージしたソリューションだ。

 
 
 
  地球温暖化防止に向けた省エネ法の強化
 
エアコン性能評価デモ画面

エアコンの性能評価をユーザが見ることで、評価、改善につながっていく。

こうした省エネに企業が力を入れなくてはならない理由として、企業の社会的責任(CSR)のほかに、本年4月に省エネ法が強化され、施行されると予想されていることがある。
また今年は京都議定書で決められた約束年度が始まる年だが、産業部門ではCO2削減が進んでいるにもかかわらず、民生部門(業務と家庭)では、かえって悪化しているという(地球温暖化対策推進本部京都議定書目標達成計画の進捗状況より)。それもあって、何としても民生部門で省エネを進めなければならないのだ(2006年度実績で、産業部門では4.6%削減しているが、業務その他部門で39.5%増加、家庭部門で30.0%増加。全体では6.2%増加している)。
予想されている改正案では、企業単位のエネルギー管理が導入され、罰則等も強化されるといわれている。企業としては、空調でエネルギーを削減できれば、経費も減り、一石二鳥。ところが、同時に労働環境を悪化させてしまっては、効率も悪くなるため、「エアネットII」や「省エネ当番」の「我慢しない省エネ」には注目が集まるだろう。

環境大臣賞

省エネ当番は、2008年のエコプロダクツ大賞エコサービス部門環境大臣賞を受賞した。

特に「エアネットII」には、性能検証サポート(コミッショニングサポート)機能が含まれており、省エネに必要な業務をサポートし、改善提案や、その改善による性能の検証もできるなど、省エネそれ自体はもちろんのこと、更にどのように省エネ策を講じるかというアプローチも可能にしている。
ちなみに、「省エネ当番」は、2008年12月に第5回エコプロダクツ大賞エコサービス部門で環境大臣賞を受賞した。

 
 
 
  日本の省エネ技術を世界へ
 

「地球温暖化は、日本だけでなく地球全体の問題だ。当然のことながら、こうした優れた省エネ技術を世界中で活用することで、世界的に省エネを推進していくことが可能だ。
「エアネットII」では、上海とスペインにインフォメーションセンターを設け、海外での展開も視野に入れている。また、省エネ当番を2008年11月から海外でも発売し、ヨーロッパや中国、北米でフィールドテストを行っている。
地球温暖化対策、省エネというと、多くの場合、便利なことや楽なことを我慢して、省エネに努めようという論調になりがちだ。
だが、IT技術をうまく活用すれば、無理に我慢しなくとも省エネはまだまだ可能だということをこれらの事例は教えてくれる。

 

取材協力:ダイキン工業(http://www.daikin.co.jp/

 
 
坂本 剛 0007 D.O.B 1971.10.28
調査報告書 ファイルナンバー 第34号 気象情報を利用したエアコンの最適設定「我慢しないで省エネルギーを実現」
イラスト/小湊好治 Top of the page

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