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CD-ROM版『A
Hard Day's Night』には、ビートルズの映画の解説本だが、参照資料として本編の映画がまるまる1本収録された。
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縦書き、ルビに対応した『CD-ROM版新潮文庫の100冊』。
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電子書籍のパイオニアであるボイジャーだが、その歴史は順風満帆なものではなかった。むしろ苦難の歴史といっていいかもしれない。同社の歴史の概略をここで俯瞰しておこう。
ボイジャーの設立は今から17年前の1992年。インターネットもまだはっきりとした形を見せず、最先端の電子メディアといえばCD-ROMの時代だった。
1989年、会社を設立する前に、萩野さんたちが手がけたのが『CDコンパニオン』という作品。『ベートーベン第九交響曲』のオーディオCDの解説部分をモニタ上に表示し、CDとのリンクを取った。曲に合わせて解説が表示されると同時に、パソコンからもCDをコントロールできる。
それ以前の電子書籍としては、三修社が1985年に発売したCD-ROM『最新科学技術用語辞典』が日本における電子書籍の第1号と言われる。当時販売された電子書籍(デジタルメディア)は、辞書やデータベースなど、紙にすると膨大な量になるものをCDに納めるというものがほとんどだった。「鑑賞するための電子書籍」としては、『CDコンパニオン』が日本初の作品と言っていいだろう。
1992年、米国西海岸のボイジャー社の日本法人としてボイジャージャパンを設立。同年、CD-ROM版『A
Hard Day's Night』という電子書籍を発売。ビートルズの映画『A Hard Day's Night』の解説本に、ムービーの形で本編の映画がまるまる1本分収録された。米国『Mac
User』誌上において年間ベストCD-ROMに選ばれ、日本国内でも2万5000本以上を販売した。同時期に、Mac対応の「エキスパンドブック・ツールキット」日本語版が発売されたが、これはCD-ROM版『A
Hard Day's Night』を制作するために作られたオーサリングツールを製品化したもので、これによって個人が手軽に電子書籍を作成することができるようになった。日本における初めての電子出版のツールだった。
1995年、「エキスパンドブック・ツールキットII」をリリース。縦書き・ルビ対応で、これにより日本語での本格的な電子出版が可能に。同年にはWindowsでの閲覧にも対応し、MacとWindowsの両方での電子出版が可能となった。このツールで制作した「CD-ROM版新潮文庫の100冊」を新潮社と共同開発。ベストセラーになった。
1996年、「エキスパンドブック・ツールキットWindows版」をリリース。Macだけでなく、Windowsでの制作も可能に。
1997年、著作権の切れた作品をテキスト化して公開する「青空文庫」がボイジャーのサーバ内で開設。ボイジャーの社員も運営に協力した。一般読者に電子書籍というものを認知させ、大きな影響を与えることになった。
1998年、電子書籍ビューワ(閲覧ソフト)「T-Time」を発表。テキストを縦書きで、美しく表示できるようになった。
2000年、「ドットブック(.book)」というファイル形式を発表。縦書き、ルビといった日本語特有の機能に加え、セキュリティ機能や立ち読み機能を搭載。2005年にはT-Timeに画像書き出し機能が搭載され、あらゆる液晶デバイスにデータを表示し、「本」にすることを可能とした。
2006年、携帯電話向けのビューワとして「BookSurfing」をセルシス、インフォシティと提携して開発。パソコンでの閲覧を想定して作られた.book形式の電子書籍を活用して携帯電話で閲覧することが可能となった。また、T-Timeがパソコンでの読み上げ機能に対応。目の不自由な人も電子書籍を楽しむことが可能になった。
1990年代の初頭はマルチメディアを取り入れたCD-ROMを多く制作したボイジャーだが、1995年代の「エキスパンドブック・ツールキットII」以降は、日本語の縦書き、文字間、行間といった“美しいテキスト”にこだわった製品が中心となった。
ボイジャーはこのとき「Text: the next frontier」というキャンペーンを行い、次のようなメッセージを発信している。
「ボイジャーはデジタル技術の可能性を広く人々のパワーとしていくために、人が困難な中においてなお創造し、記録し、伝達することの情熱を絶やさないように、いちばん身近にあって使い続けられるテキスト=文字を重要に考えています」
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2005年、T-Timeは画像書き出し機能を搭載。液晶画面のついたあらゆる機器を本にすることが可能に。 |
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