ナビゲーションを読み飛ばすにはここでエンターキーを押してください。
一覧に戻る
COMZINE BACK NUMBER
新IT大捜査線 特命捜査 第39号 世界をリードする日本のアニメ業界のIT化「デフォルメの面白さを残しながら効率アップ!」
 
  アニメのデジタル化は90年代から始まった
 
フレッシュプリキュア!

毎週日曜朝8:30より、ABC・テレビ朝日系列にて放送中の『フレッシュプリキュア!』。

ねぎぼうずのあさたろう

毎週日曜朝6:30より、テレビ朝日他にて放送中の『ねぎぼうずのあさたろう』。

大泉スタジオ外観

東映アニメーション株式会社大泉スタジオ。

「アニメ」は日本発の文化として、世界的にも評価が高いものの一つだ。その日本のアニメーション業界には600社もの製作会社があると言われるが、その中で最大級の規模を誇るのが東映アニメーション株式会社だ。アニメーションの企画、製作、販売、著作権まで含めて、総合的にアニメーションビジネスを展開している企業だ。
同社は1956年に創立。分業制によるアメリカ型のプロダクションシステムを日本で初めて導入したアニメーション製作会社としても知られる。これまでに製作されたアニメーションは、映画196本、テレビ作品186本、総話数10,100話を超えた。古くは『白蛇伝』、『狼少年ケン』、『ゲゲゲの鬼太郎』に始まり、『ドラゴンボール』『美少女戦士セーラームーン』、最近では『ワンピース』、『金色のガッシュベル!!』、『フレッシュプリキュア!』、『ねぎぼうずのあさたろう』に至るまで、多くのヒット作を生み出してきた。現在でも、年間250話を超えるアニメーション作品がここで作られている。
『崖の上のポニョ』の宮崎駿、『おもひでぽろぽろ』の高畑勲、『未来少年コナン』の大塚康生、『時をかける少女』の細田守など多くのクリエーターを輩出したことからもわかるように、まさに日本を代表するアニメスタジオだ。
日本では1990年代後半からアニメーションの製作にもコンピュータが使われ始め、2009年現在では「セル」を使った作品はほとんどなく、ほぼ100%の作品が「デジタル」で製作されている。
今回は、このアニメーション製作におけるIT化について、東映アニメーションに取材した。

 
 
 
  アニメ製作工程のデジタル化
 
製作工程図
絵コンテ

演出家が手描きで作る絵コンテがアニメ作品の設計図になる。

タブレット

液晶タブレットでの動画作成作業。手描きの原画を読み込んで、その上から動画用の線画を作成していく。

画面上での彩色

画面上での彩色。アナログでは絵の具を塗っていたが、デジタルではワンクリックで色が塗られる。「色数はほぼ無限大といっていい」と小塚さん。

東映アニメ 小塚さん

東映アニメーション株式会社 製作本部デジタル映像部付部長 小塚憲夫さん。

私達がテレビ番組などで親しんでいる2次元の絵が動くアニメーションは、専門的には「セルアニメ」と呼ばれている。アニメにはこの他、粘土の人形を少しずつ動かしていく「クレイアニメ」、3次元のデータをコンピュータ上で動かす「CGアニメ」などがあるが、今回は、一般的な「セルアニメ」の製作工程について見ていこう。

「セルアニメ」の「セル」とは、初期に用いられた「セルロイド」に由来する「透明シート」のこと。透明シートにキャラクターを描き、背景と重ね合わせて1コマずつカメラで撮影し、1秒間30コマを連続して再生(テレビ番組製作の場合)することでアニメーションができあがる。よく言われるように、アニメーションは「パラパラ漫画」なのだ。

セルアニメの作り方は、大まかに右のような流れになる。

デジタル化が進んでいると言われるアニメの製作現場は、どのように変わってきたのか、東映アニメーション製作本部デジタル映像部付部長の小塚憲夫さんに聞いた。
「動画、彩色、背景、撮影、編集などはほぼ100%がデジタル化していますが、原画の部分はまだ4分の1か、5分の1くらいしかデジタル化されていません。原画のデジタル化の方法としては、液晶タブレットを使って最初からデジタルで描く方法があるのですが、微妙な手の作業ですので、現時点ではやはり紙に描く方が圧倒的に多いですね」
紙に手描きした原画をスキャナで読み込み、それ以降のデジタル作業に進めていくわけだ。
「クリエーティブな部分は、デジタルにはなかなか移行できない部分で、人の手でやらなくてはいけない部分です。その微妙なタッチが日本のアニメの良さにもなっているのです」

アニメのデジタル化の大きな目的は、作業の効率化とコスト削減にある。そういう意味で、作業負担の大きかった「彩色」のデジタル化は効果が大きかったという。
「30分1話で約3500枚のセルが必要になるのですが、それがまず全部データになり、セルや絵の具といった材料が必要なくなりました。紙に描いた動画をセルに転写するトレースの作業はなくなり、色を塗る彩色の作業も非常に短時間で行うことができますし、インクの乾くのを待つ必要もなくなりました」
彩色では、筆で絵の具を塗っていたが、デジタルでは塗る場所を指定し、クリックするだけで一瞬で色が塗られる。彩色のスピードは5倍くらいになったのではないかと小塚さんは言う。
また、以前は100色くらいの決まった絵の具から色が決められていたが、デジタルでは1670万色という、ほとんど「無限」の色の中から選ぶことができるようになった。

 
 
 
  デジタル化によってネットワークが可能に
 
サーバルーム

データはすべてサーバで一元管理されるため、整理が格段に楽になった。

現在の製作現場

デジタル化されて、紙が減り、すっきりした製作現場。

テレビ会議

フィリピンの子会社との打ち合わせはテレビ会議で。

特殊効果

光やグラデーションなどは、デジタル得意の表現の1つ。

アニメーションの製作がデジタル化されたことで、作業の効率が格段に上がったという。具体的には、 (1)セル、絵の具、フィルムがいらなくなった
(2)途中段階のデータの保存が容易で、データの再利用も簡単
(3)動画の確認が楽で、作業のやり直し、修正が容易
(4)サーバでデータを一括管理するため、データの整理が容易

今では、絵の具もほとんど製造されておらず、実際のところセルを使用したアニメ製作はますます難しくなっている。また、使用したセルを倉庫などに保管管理する必要がなくなったことで、それらに関わるコストや手間も大幅に削減された。
また、アニメでは、背景を変えて同じ動画を使用することがあるが、デジタルの場合、保存も流用も格段に楽になった。


更に、デジタル化ならではのメリットもある。
まず、3次元CGやグラデーション、炎や光の表現などの特殊効果を取り入れることが簡単になった。そこで、例えばキャラクターの動きをコンピュータが自動的に生成する3次元CGを2次元のアニメーションの中に取り入れることで、今までにないリアルな雰囲気を表現することも可能になった。また、キャラの輪郭の部分にグラデーションを用いることで、キャラ全体を光らせるような「空気感」を表現するなど、絵の表現の幅が広がったとも言える。

次に、早い段階からアニメーションの動きを確認できるというのも、製作現場では有り難い。以前は、彩色する前の段階で動きを見ようとすれば、紙に描いた線画をパラパラ漫画の要領で確認していたが、デジタル化されたことで、最終段階と同じように画面上で動きを確認しやすくなった。これによって、アニメーターは、自分の意図したように仕上がっているか、彩色前に見ることができるというわけだ。早い段階で修正を加えることができるようになったのは、作業の効率を上げるという点でも、またキャラクターに、より完成度の高い動きを与えることができるという点でも、大きなメリットと言える。
更に、データ化され、ネットワークでやりとりができるようになったのは、アニメのデジタル化の中でも最大のメリットと言えるかもしれない。クリエーターのパソコンはすべてサーバに接続され、一元的にデータが管理されるため、データのやりとりや整理も簡単で、進行状況の把握も容易だ。これは何人かのクリエーターで手分けをしながら作業を進める際には必須のIT環境といっていいだろう。

東映アニメーションでは、一部の工程を外部のスタジオに依頼しているが、ここでもデジタル化が効いてくる。
「国内の場合、約3500枚のセルを車で運んでいたのですが、それがネットワークならあっという間に送ることができるようになりました」
約3500枚のセルが物理的になくなったことでスペースに余裕ができたことも大きいが、時間的な制約がなくなったことも大きなメリットだ。

更に、東映アニメーションにはフィリピンにも製作現場があり、そこともネットワーク経由でデータをやり取りしている。
「セルの時代には飛行機を使っていましたが、今は専用線でやり取りしています」
電子メールやFAXでのコミュニケーションに加え、打ち合わせはテレビ会議という、まさにIT環境。ネットワーク化によって、日本とフィリピンという距離さえも以前ほどには感じなくなったわけだ。

 
 
 
  効率化された部分はより良い作品づくりに
 

デジタル化によるこうしたメリットがあることは認めながらも、「現場全体の仕事量は減っていない」と小塚さんは言う。
その理由の一つは、「修正が簡単」ということにある。
「セルの場合は修正するとなれば、セルに線を引いて色を塗ることから始めなければなりませんでした。でもデジタルなら色を変えるのも一瞬ですし、動きを修正するのも簡単で、試行錯誤が可能になったのです」
修正が簡単だとなれば、締め切りぎりぎりまで「もっと良くならないか」と考えるのがクリエーターという人種だ。セルの時代なら作業の大変さからあきらめていたことを、あきらめる必要がなくなったのだ。結局、締め切りまで作業は終わることがない。

毎週放映されるシリーズものの場合、ある週の作業が遅れると、翌週以降に影響が出てしまうため、締め切りは絶対厳守で進めなければならない。どうしても締め切り間近となれば、残業も余儀なくされることになってしまう。自由であればあるほど、やってみたくなる、とりあえずやってみようとなってしまう。
限られた時間の中で、質の高い作品を生み出すための努力がデジタル化された現在も続けられているのだ。

 
 
 
  3次元CGにも日本アニメの面白さを
 
動画

動画は1秒間30コマの絵を一つひとつ作成する。彩色する前の段階でもタイムシートに登録すれば、動きを確認することができる。

ロボディーズ

3次元CGを使用した『ロボディーズ』。東映アニメーションのデジタル映像部が製作した。

3DCG 3DCG骨右

3次元CGでは、XYZすべてのデータ、時間やテクスチャーを指定(右)した上で計算するので、リアルなアニメーションになる。

ところで、デジタルでアニメーションを作るのであれば、ある絵とある絵の間の動画を自動で作ることはできないのだろうか。
「2次元のアニメーションを自動で生成する技術は、東映アニメーションでもかつて研究したことがありました。簡単なものはできるのですが、アニメーションとして見た場合に面白みに欠けるというか、違和感の残るものになってしまいます」とのこと。導入はしていないのだという。
「3次元CGは、キャラクターのXYZの3次元データをすべて入力して、位置と時間、テクスチャーを指定してから計算させるので、そういう意味ではウソのない、リアルなアニメーションになります。ところが、2次元のセルアニメはリアルさではなく、デフォルメされた形や動きに面白さがあるのです」
米国のアニメーションは今やピクサーやディズニーを始めとする3次元CGが主流だが、日本のアニメーションの面白さはこのデフォルメや手描きの良さにもありそうだ。そこがなかなかデジタル化しにくい部分でもあるのだろう。
小塚さんは、3次元CGにデフォルメの手法を取り入れた、新しい日本のアニメの開発にも力を入れている。これから登場する新しいアニメにも注目したい。

 
 
 
  ネットでのダウンロード販売も好調
 
東映アニメBBプレミアム

往年の名作も視聴できる『東映アニメBBプレミアム』。

アニメジャン_PC

『週刊少年ジャンプ』の原作作品を集めた『アニメジャン』。

アニメーションギャラリー

東京都練馬区にある東映アニメーションの大泉スタジオには、「東映アニメーションギャラリー」が併設され、初期作品のメイキングの映像、作品関連のフィギュアなども見ることができる(入場無料)。

アニメジャン_ケータイ

「アニメジャン」のケータイ向けサイト。

東映アニメーションでは、販売でもIT化に力を入れている。2006年から始めた販売サイト『東映アニメBBプレミアム』のほかに、2009年4月からスタートした『週刊少年ジャンプ』原作作品を集めた「アニメジャン」の2つのサイトを運営。1950年代の作品から最近の作品まで多くの作品をPCやテレビで視聴することができる。
携帯電話でも作品の映像配信サービスを行っており、こちらは好調だという。
これらのサイトでは、料金も1本105円から。1ヶ月998円で約300話が視聴できるという月額単位の見放題プランなども用意されている。
こうしたネットでの販売について、同社広報担当者は「DVDに次ぐビジネスの柱として育てていきたい」と語る。
DVDは店頭在庫の問題などもあり、販売できるタイトル数にはどうしても限界があるが、ネット販売はタイトル数を増やすのも比較的容易だ。往年の名作も絶版にならずに手軽に見られるのは何よりもうれしいことだ。
アニメーションの世界は、熱狂的なファンも多く、世界的にも市場は広がりつつある。「ジャパンクール」の代表であるアニメーションのIT化はこれからもますます進み、ますます全世界にアピールしていくことになるだろう。

(c)ABC・東映アニメーション
(c)飯野和好/福音館書店・東映アニメーション
(c)Toei Animation/Disney
(c)バードスタジオ/集英社・東映アニメーション
(c)鳥山明/集英社・東映アニメーション
(c)車田正美/集英社・東映アニメーション
(c)車田正美/集英社・東映アニメーション・マーベラスエンターテイメント
(c)ゆでたまご/集英社・東映アニメーション

 

取材協力:東映アニメーション株式会社(http://www.toei-anim.co.jp/

 
 
加藤 三郎 0005 D.O.B 1956.6.18
調査報告書 ファイルナンバー 第39号 世界をリードする日本のアニメ業界のIT化「デフォルメの面白さを残しながら効率アップ!」
イラスト/小湊好治 Top of the page

月刊誌スタイルで楽しめる『COMZINE』は、暮らしを支える身近なITや、人生を豊かにするヒントが詰まっています。

Copyright © NTT COMWARE CORPORATION 2003-2015

[サイトご利用条件]  [NTTコムウェアのサイトへ]