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新IT大捜査線 特命捜査 第41号 本格化する「放送と通信の融合」「自宅で見られる日本の映像資産」
 
  日本の映像資産を自宅でも
 
NHKアーカイブス

NHKアーカイブスは、約6,000本の番組を収録。埼玉県川口市の専用施設のほか、専用線でつながれた全国のNHK放送局でも視聴することができる。

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NHKオンデマンドは、見逃した番組や過去の映像資産を自宅で楽しめるビデオ配信サービス。

「NHKオンデマンド」は、2008年12月1日にスタートしたオンライン・ビデオ・サービスだ。昨年夏に概要が発表され、NHKの映像資産を手軽に楽しめると期待されている。「スタートが急だったので、突貫工事で何とかオープンに間に合わせた」というNHKオンデマンド室室長の木田実(ぼくだ・みのる)さんにお話を聞いた。

木田さんはNHKオンデマンドに関わる前は、埼玉県川口市にあるNHKアーカイブスの立ち上げ、運営に携わっていた。
2003年に完成したNHKアーカイブスは、NHKが過去に放送した60万本を超すニュース映像や番組映像などを保管、活用している施設で、この中にある番組公開ライブラリーでは、NHKの代表的な番組6,000本が無料で試聴できる。番組公開ライブラリーは、専用回線で全国のNHK各放送局にも接続されており、NHKの放送局に行けば、こうしたサービスを受けられる。このサービスをブロードバンド回線で家庭まで広げ、自宅のパソコンなどで見てもらおうと企画されたのが、NHKオンデマンドである。

これまで、そうしたサービスができなかったのは、放送法の規制があったため。だが昨年9月に放送法9条が改正され、ネット配信する「通信業務」をNHKが行うことが認められた結果、このサービスが開始できるようになった。時を同じくして、民放でも同様のサービスが開始されたが、その規模、作品のレベルともNHKが最も充実しているといって過言ではない。

この時期にサービスが開始されたもう一つの理由に「ブロードバンド環境が整ってきたこともある」と木田さんはいう。「NHKアーカイブスが企画された時にはADSLがやっと普及し始めたばかりで、映像も小さく、決してきれいとは言い難かったのですが、その後、光ファイバーが全国的に普及して、高画質で配信できるようになりました。その点もこのサービスを始めるにあたって大きな後押しになりました」。

NOD木田室長

NHKオンデマンド室室長 木田実さん。

インターネットが登場した1990年代から始まって、放送局の株式買収騒動が起きた最近まで、「放送と通信の融合」は常に話題に上ってはいた。しかし動画の品質という意味でも、著作権や放送法が未整備という意味でも、なかなか本来の意味での融合は起こらなかった。NHKオンデマンドによって、ようやく本格的に「放送と通信の融合」が始まったといってもいいだろう。

 
 
 
  カテゴリーは「見逃し」と「特選」の2つ
 
NODの2カテゴリー

NHKオンデマンドには、過去10日間ほどに放送した番組を公開する「見逃し番組」と、過去にNHKが放送した注目番組を公開する「特選ライブラリー」がある。

NOD見逃し

「見逃し番組」は毎日10〜15本の番組を公開。1本105〜315円で視聴できる。見放題パック月額1,470円も。

NOD特選ライブラリー

「特選ライブラリー」には、1950年代からのお宝モノの映像約2,000本がずらりと並ぶ。こちらも1本105〜315円で。

NOD画面02

パソコンでの視聴は、1.5Mbpsの高解像度か、768Mbpsの低解像度の2つのビットレートから選ぶ。テレビ系のサービスではハイビジョンで楽しむことができる。

それではまず、サービス内容から見ていこう。
NHKオンデマンドのサービス内容は大きく「見逃し番組」と「特選ライブラリー」に分かれる。

「見逃し番組」は、NHKの提供する国内のテレビ5波(総合、教育、BS1、BS2、BShi)の中から、毎日10〜15本を選び、放送終了後24時間以内に提供。公開期間は10日間程度となっている。また『おはよう日本』、『正午のニュース』、『ニュース7』などのニュース番組は放送終了後2〜4時間後に提供、最長1週間の公開。料金は105〜315円で、月額見放題パック1,470円も。
「見逃し番組」に含まれるのは『ITホワイトボックス』などのドキュメンタリー、『きょうの料理』『きょうの健康』などの定番番組、『クローズアップ現代』『経済最前線』などのビジネス系、『グイン・サーガ』などのアニメ等々、本当に多岐にわたり、放送を見逃した人はもちろん、録画を忘れたり、録画に失敗した人にもありがたいサービスだ。

一方の「特選ライブラリー」は過去に公開されたドキュメンタリー、ドラマなどの中から要望の多い作品を公開。サービスを開始した昨年12月には1,260本が公開されたが、その後続々と追加され、2009年6月末の時点で1,956本の作品が公開されている。毎週金曜日に約20番組程度が公開され、今後も順次追加されて行く予定だ。料金は105〜315円で、シリーズなど複数本をまとめて割引価格で購入できるパック販売もある。
ラインアップを見てみると『龍馬が行く』『天と地と』などの大河ドラマ、『シルクロード』『地球大進化』などのドキュメンタリー、『タイム・トラベラー』『なぞの転校生』などのドラマ、『みんなの歌』『夢であいましょう』など、懐かしい番組がずらりと並ぶ。正に、日本のテレビの歴史を見る思いだ。

動画の品質はというと、パソコン用の映像は1.5Mbpsの高解像度か、768Mbpsの低解像度の2つのビットレートで配信されている。
だが、NHKオンデマンドの配信はパソコン用ネットサービスだけではない。有線テレビ(J:COM)や、ネット対応デジタルテレビで利用できる動画配信サービス(アクトビラ)、光ケーブルでの動画配信サービス(ひかりTV)など、テレビ向けのネットサービスにも対応している。こうしたテレビ系動画配信サービスでは、動画品質はハイビジョンで配信しているので、非常に鮮明な画質で視聴できるわけだ。

現在は、パソコンでの利用が多いが、今後はデジタルテレビの普及で、手軽で高品質な画像が楽しめるテレビ系のユーザが増えると期待されている。

 
 
 
  視聴料が有料なのは通信だから
 
NOD無料

集客を図るために無料公開も。いずれも人気の作品ばかり。簡単な登録をすれば、すぐに観ることができる。

木田さんは「受信料で制作された番組を観るのに、なぜ有料なのか」ときかれることがあると言う。
「ネット配信は放送ではないため、出演者や権利者から新たに権利を取得する必要があります。また、データ変換や配信設備の維持にも経費がかかり、こうしたコストに法律上NHKの受信料を使用することはできないためです」
つまり、電波による「放送」は放送法によって規定されており受信料で賄われる。ところが、ネット配信(電気通信回線を通じたコンテンツの提供)は放送ではなく「通信」。日本の著作権法では、「放送」と「通信」は別の権利なのだ。このため、「放送」用の受信料を「通信」のコストにあてることはできず、なおかつ「放送」のために取った許可とは別に、「ネット配信」のための許可を取る必要があり、著作権や肖像権などに対する対価や出演者へのギャラも放送とは別に発生する。

その結果「受益者負担」という観点から「若干の費用負担をお願いしている」ということなのだ。
「我々としてはギリギリの価格を出したのですが、それでも高いという声があるのは確かです。でも、315円で1時間、充実した時間を過ごせる、あるいは必要な情報が得られると考えれば高くはないと考えます。また、見逃し番組で月額見放題の場合、1,470円で約600本の番組を見ることができるのですから、手頃な価格ではないでしょうか?」
更に、現在はサービスを始めたばかりで利用者が少ないため、この価格に設定されているが、利用者が増えれば、価格を下げることも可能だという。
「NHKオンデマンドは営利事業ではないため、利用者が増えれば安くすることが可能です」
現在の会員登録者数は12万人を超えたところで、各番組の視聴数もまだ数百程度だという。315円で500人が見たとしても売り上げは15万7,500円にしかならない。事業としては赤字だという。
「そういう意味では、視聴数の少ない番組がずらっと並ぶロングテールなんです」
各コンテンツの視聴者が少ないことを考えると、コンテンツ数をもっと増やし、全体での収益増を図る「ロングテール型」の構造を充実させる必要があるということだ。

視聴料が高いと感じてしまうことについて木田さんは、インターネット文化による部分が大きいと考えている。
「“ネットは無料”という文化がインターネットにあること。そして、YouTubeなどの先行した無料動画サイトの存在がある」ためにネット利用者に有料視聴への抵抗感があることを指摘する。

木田さんは「視聴者からの要望の多さを考えると、もっと多くの方の視聴が見込まれるはずなのですが、まだまだ認知度が低いことも原因だと思います」という。
もちろん、認知度を上げるための努力はしている。
連続テレビ小説『風のハルカ』(1〜6話)ほか、数作品を無料公開したり、バナー広告などで集客を図っており、こうした地道な活動が会員数の増加につながっている。

 
 
 
  ルール化と効率アップも課題
 

また、木田さんは、放送とは別に配信の許可を取る作業に非常に手間がかかることも指摘する。
「放送業界では、著作権料や出演料について、ある程度のルールが決まっており、料金表のようなものがあるので、それに基づいて交渉すればいいのですが、ネット配信での再使用については、まだ、こうしたルールが決まっていません」
そのため、その都度、個別の交渉が必要になるという。
また「放送はOKでもネット配信はお断りという出演者もいる」。インターネットに不信感を持っている権利者も残念ながらまだ多いのだという。こうした場合には、ネットで配信することはできなくなる。

ネット配信の許可取りに手間取ったり、許可が取れないという状況は、今後ネットに接続できるデジタルテレビが更に普及し、「テレビでNHKオンデマンドを観る」ことが一般的になり、認知度が高くなれば変わってくるはずだ。視聴者や著作権者にとっても「テレビで観る」という点で代わりがなくなるからだ。
先にも述べたように、現在はパソコンでの利用者が多いが、一般の人にとってはいちいちパソコンを起動するよりも、デジタルテレビを操作する方が圧倒的に便利なはずだ。
更に、「テレビ系のネット配信はハイビジョンなので、きれいで迫力のある映像を楽しむことができます」という点も見逃せない。

NHKオンデマンドの認知度の高まりとともに、デジタルテレビの普及が、ユーザ層を変化させることは間違いないだろう。

 
 
 
  NHKが取り組む「放送と通信の融合」
 
NHK語学番組

ラジオの語学番組では、番組サイトで、ストリーミングで番組と同じ音声をいつでも聞くことができるサイトが増えた。NHKオンデマンドでも「見逃し番組」でテレビの語学番組を視聴できる。

なまらナイト

NHK山形放送局の『今夜はなまらナイト』は、方言をベースにしたラジオ番組。サイトで広く情報を募集し、視聴者参加型の番組に。ケータイ版もあり、10月にはテレビにも進出する。

NHKでは、NHKオンデマンドを始めとして、インターネットを使用したさまざまなサービスを活発に行っている。番組関連の情報サイトの充実はもちろん、NHKオンラインのブログなども運営されている。更に、ラジオの語学番組サイトでは、番組と同じ音声が無料で聞けるサービスも登場している。

こうした活動は、テレビのデジタル化と無縁ではない。
2011年7月に、テレビ放送はすべてデジタルに切り替わる。それによって、単に映像がハイビジョンになってきれいになるだけではなく、双方向通信が可能となり、放送は通信に近づく。テレビからインターネットに接続することも今や一般的だ。また、NHKオンデマンドによって通信を通じて、放送と同じコンテンツを同じような品質で、しかもいつでも楽しむことができるようになった。正に「放送と通信の融合」が本格的に始まるのだ。

NHKが昨年10月に出した「平成21〜23年度経営計画」の中では、次のように述べられている。

「放送と通信が融合する本格的なデジタル時代に、放送を軸としつつ、インターネットや携帯端末等、視聴者のみなさまにとって最も身近なメディアに、信頼できる情報や豊かで多様なコンテンツをお届けすることで、『いつでも、どこでも、もっと身近にNHK』をめざします。」

「いつでも、どこでも、もっと身近に」は「3-Screens」と呼ばれ、テレビ、パソコン、携帯端末の3つのスクリーンにそれぞれ最適な情報とコンテンツを提供することを目標にしている。
NHKオンデマンドはこうした流れの中で、非常に大事な柱として位置づけられており、「放送と通信の融合」の象徴的な存在になっている。

 
 
 
  NHKオンデマンドは日本国民の資産
 

木田さんはNHKオンデマンドの今後について、ネットでの著作権利用についてのルールや標準的な対価を決めること、ネット利用を前提にした出演交渉の必要性を指摘する。とはいうものの、放送と通信という、似ているようで扱いの違う分野のため、「一括して交渉することは難しい」という。
「やはり認知度を高める努力をしながら、コンテンツも充実させていく。それに合わせて、デジタルテレビの普及などでアクセス可能な人が増えていけば、その相乗効果でユーザが増え、ユーザが増えれば、料金も安くできます。すべてが良い方向に向かっていくと思います」と、期待している。

また、現在はパソコンでの場合、Windowsでしか視聴できないが、今後はMacintoshでも視聴できるように変更していくという。こうしたオープン化はこれからますます広がり、さまざまな場面でNHKオンデマンドに触れる機会が増えていくことだろう。現在は携帯端末への対応は「長時間観ることになじまないため」予定されていないが、ハード側の進化やユーザからの要望が増えれば、実現される可能性もある。

NHKの番組は、言うまでもなく日本国民全体の映像資産だ。ドキュメンタリーにしろ、ドラマにしろ、ニュース番組にしろ、クオリティも高く、時代を反映した優れた作品が数多く制作されている。
そうした映像資産に国民がいつでもアクセスできるようにするというのが、NHKオンデマンドのいわば“志”だ。本格化する「放送と通信の融合」には欠かすことのできないサービスとして、これからますますの充実に期待したい。

 

取材協力:日本放送協会 NHKオンデマンド室(https://www.nhk-ondemand.jp/

 
 
加藤 三郎 0005 D.O.B 1956.6.18
調査報告書 ファイルナンバー 第41号 本格化する「放送と通信の融合」「自宅で見られる日本の映像資産」
イラスト/小湊好治 Top of the page

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