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特命捜査 第48号 街にあふれるデジタルサイネージ 「単なる電子看板? それとも新しいメディア?」

広告・電機・通信業界が注目するデジタルサイネージ

渋谷ハチ公口

渋谷駅交差点には大型デジタルサイネージが集中する。

スーパーの日用品売場

スーパーの日用品売場。小型の液晶ディスプレイは導入しやすい。

電車の中のデジタルサイネージ

行き先案内と広告を並べて表示する、電車の中のデジタルサイネージ。

石戸さん

デジタルサイネージコンソーシアムの石戸奈々子さん。

スタンドアロン型図版

スタンドアロン型の構成図(DSC「デジタルサイネージシステムガイドブック」より)。

ネットワーク型図版

ネットワーク型の構成図(DSC「デジタルサイネージシステムガイドブック」より)。

駅前ビルの壁に取り付けられた巨大なディスプレイ、ブランドショップの店内を飾る液晶モニタ、毎日乗る通勤電車内…。気が付くと、街の至る所にディスプレイが設置されている。壁一面ほどの大きなものから、ポータブルテレビのように小さなものまで、画面の大きさはさまざまだ。横型、縦型、中にはタッチスクリーンを採用し、その場で操作できるものもある。映し出される情報も多種多様。動画や静止画が多いが、文字だけのものもある。
こうした街中のディスプレイは以前からあったものの、ここ数年で随分、数が増えているような気がする。目にするのも意外な場所。ディスプレイ付きの自動販売機なんて、昔はなかったと思うが?

屋外や店頭に設置されたディスプレイは、「デジタルサイネージ」と呼ばれている。分かりやすく言うと、電子看板。電子ポスターやデジタルPOPと呼ぶこともあるらしい。
なるほど、看板やポスターだから広告や商品の説明が多いのか。でも、駅や空港の施設案内のように、広告を表示しないディスプレイもよく見かける。あれはデジタルサイネージじゃないのだろうか? 昔からある電子掲示板の1行広告はデジタルサイネージ? うーん、よく分からない。そもそも、なぜこんなにデジタルサイネージが増えてきたのだろう?

今回お話を伺ったのは、デジタルサイネージコンソーシアム(DSC)の理事・事務局長を務める石戸奈々子さん。石戸さんによれば、DSCは2008年を“デジタルサイネージ元年”と位置付けているのだとか。
「広告・電機・通信の3つの業界が、そろって力を入れ出したのがこの年なんです。デジタルサイネージは主に広告メディアとして使われますから、広告主にとってメリットが出てきたんですね。また、ディスプレイの価格が下がってきたので導入しやすくなりました。ブロードバンドの普及が進むなど、通信環境が良くなってきたことも普及を後押ししています」

導入の敷居が低くなり、普及に弾みが付いたわけだ。では、デジタルサイネージはどんな仕組みで情報が送られているのだろう。街中で目にするのはディスプレイのみだが、広告や商品説明などの情報を表示するためには、送り出し側のシステムが必要になるはず。

「運用の形はさまざまですね。基本はスタンドアロン型といって、ディスプレイと送り出し側の機械(パソコン、USBメモリ、DVDプレーヤーなど)を1対1で接続します。これを発展させたのがネットワーク型。こちらはネットワーク上に設置した管理サーバから、複数のディスプレイに情報を送り出します。今普及しているのはほとんどがスタンドアロン型で、ネットワーク型はまだ全体の1割ほどに過ぎません」
個人経営の店ではスタンドアロン型がほとんどで、ネットワーク型はコンビニやレンタルビデオといった、チェーン店を中心に導入されている。数は少ないが、中には数百台から数千台ものディスプレイを結ぶ大規模なネットワークシステムもあるらしい。


時間と場所を限定し、見せたい人に情報発信

赤坂サカスのインフォメーションサイネージ

赤坂サカスのインフォメーションサイネージ。タッチパネル式で音声も出る。

レストランのデジタルサイネージ

レストランのデジタルサイネージ。時間帯で表示するメニューを変えている。

品川駅

品川駅コンコースのデジタルサイネージ。ここも時間帯で広告が変わる。

いろいろ業界から熱い注目を集めているデジタルサイネージ。そのメリットをいくつか挙げてみよう。どれも街頭の看板やポスターではできなかったことばかりだ。
(1)ターゲットを絞った広告を届けることができる。
(2)表示内容を簡単に変更できる。
(3)動画や音楽を使った訴求力の高い情報を提供できる。
(4)ディスプレイ毎に送り出す情報を制御できる。
(5)長期的に見れば広告コストを削減できる。

中でも広告主が特に注目しているのが、メリットの(1)。これは広告業界で「ターゲット・マーケティング」と言われている手法だ。
例えば商店街に設置したディスプレイの場合、朝は通勤客向けに缶コーヒーの広告を流し、午後は主婦向けにスーパーの安売り情報を表示、夜は勤め帰りのサラリーマン向けに居酒屋の店舗案内を見せる。時間によってディスプレイに注目する人は違うので、想定される層に向けた広告を選んで流せば、訴求効果はより高くなる。
時間だけでなく、場所を絞って的確な広告を流すこともできる。例えば自動車教習所にディスプレイを設置した場合。教習生は若い人が多いから、教習の待ち時間に若者向けの車や化粧品、ファッションブランドなどの広告を流せば、目を留めてもらいやすい。

テレビや新聞などマスメディアの広告は一度に多くの人が目にするが、本当に見てほしい人に届く確率はそれほど高くない。視聴者層、読者層によってある程度はターゲットを絞れるが、デジタルサイネージほど細かく限定するのは難しい。
逆にもっとターゲットを限定したい場合は、携帯電話やパソコンを使ったウェブ広告やメール広告がある。利用者の年齢や性別が分かっていたら、ピンポイントに広告を打つこともできる。

広告の観点から見た場合、デジタルサイネージにはマス広告とピンポイント広告の両方のメリットがあると言えるだろう。公共の場に設置されるので、歩いていると自然に目に入ってくる。それでいて、そこには自分の興味がある商品が映し出されている。
もちろん、全てのデジタルサイネージがこういう形で運用されているわけではない。中には季節毎にしか広告を変えない、電子ポスターのような使い方をするケースもある。

広告主が注目するデジタルサイネージだが、石戸さんは課題もあるという。
「広告効果を測定する具体的な指標がまだないのです。その策定もDSCの役割だと考えています」
インターネットの広告ならクリック数などでその効果を測ることができるが、ごく普通のディスプレイを使うデジタルサイネージでは難しそうだ。と思っていたら、一部ではディスプレイにカメラを搭載したデジタルサイネージが導入されているという。ディスプレイの前に立った人の顔を認証し、性別と年齢を自動的に判別。その人に合った商品の広告を流す仕組みだ。
このデジタルサイネージを店舗内に設置して売上データと照合すれば、どの商品がどれだけ広告を見て買われたかが数値として見えてくる。
そこまでいかなくても、タッチパネル式のデジタルサイネージなら、その反応からある程度、広告を見た人を分類することができるという。
どうやらデジタルサイネージには、単なる電子看板とは言い切れない大きな可能性があるようだ。


生活情報や災害・緊急情報も提供

赤坂駅の大階段

地下鉄赤坂駅の「Media Stairs」。アーティストのカンバスとして使われている。

広告ばかりに目が向きがちだが、デジタルサイネージはそれ以外の用途でも使われている。
珍しいのは、地下鉄赤坂駅の大階段に設置された19段のLEDビジョン「Media Stairs」。ここは広告スペースとしてではなく、アーティストがデジタル作品を発表する舞台として使われている。
また比較的よく目にするのが、病院の受付に設置されたデジタルサイネージ。この分野に特化したデジタルサイネージの会社もあり、既に複数のシステムが市販化されている。ディスプレイ上に表示されるのは、医療ニュース(「インフルエンザが流行っています」等)、医師の紹介、施設の紹介などの情報。受付番号を大きく表示し、患者呼び出し機能を持たせたデジタルサイネージも多い。医療やリラクゼーションをテーマにした番組を流すケースもある。

病院の受付

病院の受付。受付番号を表示し、患者の呼び出し機能を持たせている。

JR駅

JR駅のデジタルサイネージ。災害や事故による遅延情報も随時流される。

行政単位での導入も進んでいる。千葉県の四街道市は、今年の3月から市内3ヵ所に46型の大型画面を持つデジタルサイネージを設置し、運用を始めた。
本体はタッチパネル式になっており、市からのお知らせ、市の行事やイベント案内、歴史、文化財、公共施設案内などの行政情報を、動画、電子ポスター、地図などで分かりやすく紹介する。バス路線、防犯情報、市内グルメ情報など、市民に役立つ地域情報も提供している。
また、本体に表示されるQRコードを携帯電話で読み取れば、施設案内とグルメ情報を転送することもできる。

電車内や駅ナカ、バス停などに設置された交通系のデジタルサイネージは、地域の生活情報や防犯情報、災害情報を表示する機能を備えたものが多い。エリアが限定されているので地域情報を流しやすいし、人目に付きやすいため、緊急情報を流すのに適しているのだ。
台風の影響で電車の運行が乱れた時、駅の改札口付近に設置されたデジタルサイネージに映し出される台風情報を見たことがある人もいるだろう。
こうした実例を見れば、デジタルサイネージが既に社会インフラとして機能していることがよく分かる。


ローカルメディアとしての可能性

タッチビジョン

神田商店街に設置された「Touch!ビジョン」。

タッチビジョンにタッチ

「Touch!ビジョン」から携帯電話にお店の情報を転送。

石戸さんは、デジタルサイネージが本格的に普及するためには、地域単位での導入がカギになると話す。
「街の活性化という視点からも、地域全体でデジタルサイネージの導入を推し進める方法が有効だと思います。地域の特性を活かしたイベントやキャンペーンを打ち、そこでデジタルサイネージを活用する。このやり方は既にいくつかの実例があり、住民以外の来客も生み出しています」
例えば、JR神田駅周辺の商店街には、ストリートメディア社のデジタルサイネージ「Touch!ビジョン」が数多く設置されている。これは地デジの放送波を利用して、番組の必要な情報部分だけを店先のデジタルサイネージに配信するユニークなシステム。昨年夏には「神田らーめんバトル」というイベントを開催し、商店街への来客誘致と商店街のPRに成功した。
具体的には、ラーメン店に来たお客が店内のカードリーダーに携帯電話をタッチする。するとその店に一票が投じられ、「Touch!ビジョン」には各店の得票数が表示される仕組みだ。投票すると携帯にスタンプがたまり、一定数になればラーメン店のクーポンがもらえるというものだった。

また、メディアサービス会社のCOMELは、福岡の中心街に大がかりな「福岡街メディア」を展開している。JRや私鉄の駅付近、バスターミナル、ドラッグストア、コンビニなど、人が多く集まる場所に、500面以上のディスプレイを設置。デジタルサイネージ地域にある店舗の広告を数多く流している。
福岡街メディアで注目したいのは、少しでも多くの人の関心を引くよう、流す情報に工夫を凝らしていることだろう。地元のプロ野球チーム・福岡ソフトバンクホークスの試合速報や順位表、ニュース映像などを、広告と一緒に流しているのだ。

ただし、地域単位でのデジタルサイネージ導入にも課題はある。
「それぞれの店舗が勝手にスタンドアロン型のデジタルサイネージを発注したら、ネットワークで機能しないバラバラなシステムになってしまいます。反対に街づくりのノウハウがあっても、ITの知識がなければ仕事はスムーズに進みません。広告・IT・街づくりのそれぞれに詳しい“総合サイネージプロデューサー”が必要なのです」
これはなかなか難しい条件かもしれない。だが成功した地域には、必ずそうした役割を担う人材がいるという。
今は都心部での展開が目立つデジタルサイネージだが、数年後には、地域の商店街のいたるところでデジタルサイネージを見かけるかもしれない。その時、デジタルサイネージは広告メディアから市民メディアへと進化しているはずだ。

協力:デジタルサイネージコンソーシアム(http://www.digital-signage.jp/


田島 洋一 0010 D.O.B 1976.2.3調査報告書 ファイルナンバー048号 街にあふれるデジタルサイネージ 「単なる電子看板? それとも新しいメディア?」
イラスト/小湊好治
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