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特命捜査 第53号 地上波ラジオをストリーミング配信 「ネット配信でラジオの楽しみを広げるradiko」

難聴取を解決するラジオのIPサイマル配信

radiko_tokyo

東京エリアのradikoのトップページ。在京のAM・FMの7局が並んでいる。

radiko_osaka

大阪エリアでも6局がIPサイマルラジオ協議会に参加している。

「サイマル(simul)放送」という言葉を聞いたことがあるだろうか。同じ番組を2つの異なるメディアで放送することを指すのだが、ラジオ番組をインターネットに配信する「IPサイマル配信」が今、話題になっている。東京のラジオ7局と大阪のラジオ6局が加入する「IPサイマルラジオ協議会」が試験的にインターネットストリーミングで配信を行なっている「radiko.jp(以下、radiko)」がそれだ。
同協議会の事務局を務める株式会社電通ラジオ局業務統括部スーパーバイザーの青木貴博さんにお話を聞いた。

「radikoは、2010年3月15日にスタートしたIPサイマルラジオで、これまでのインターネットラジオとの大きな違いは、 在京民放ラジオ7局、在阪民放ラジオ6局の地上波ラジオ放送をCMも含め、そのまま同時に放送エリアに準じた地域に配信するサイマルサービスだということです。そのメリットは大きくは2つあり、1つはラジオの難聴取を解消するということです。もう1つはラジオを持っていない人でもパソコンとインターネット環境があれば、すぐにラジオを聴くことができることです。」

その背景として、青木さんは現在のラジオ業界が置かれている下記のような状況があると話す。

1)都市部を中心に高層建築や鉄筋のマンションが増え、ラジオが受信しにくい難聴取環境が増えたこと
2)若年層のラジオ離れ。テレビやゲーム、携帯電話に時間を取られ、ラジオを聴く時間が少なくなってきたこと
3)ラジオ離れに伴い、広告収入が減って制作費が削減され、番組内容にも影響し、
負のスパイラルが起こりつつあること

ラジオ業界全体が抱えるこれらの問題点を解消するために、「IPサイマルラジオ協議会」が今回トライしたのが「radiko」という、ラジオ番組を放送と同時に放送エリアに準じた地域にストリーミング配信する試みだ。
「ストリーミング配信であれば、パソコンやスマートフォンで手軽にラジオを聴くことができます。また、高層建築や他の電子機器の影響も受けにくいため、難聴取の問題も解決できます」

電通ラジオ局_青木さん

株式会社電通ラジオ局業務統括部 スーパーバイザー 青木貴博さん。

音質(ビットレート)については、「AMより高く、FMより低い」ということだが、雑音がないため、非常にクリアな音質で、リスナーの反応も非常に良いという。
更に、通常のインターネットラジオとの大きな違いは、エリアを限定して配信している点だ。在京局は東京、神奈川、埼玉、千葉の1都3県、在阪局は大阪、京都、兵庫、奈良の2府2県のエリアに限定配信されている。ユーザーからすれば、地域を限定せずにあらゆる場所で聞けるほうが便利だが、それにはまださまざまな課題を乗り越える必要がある。

青木さんは「将来的には、消費者が求めるようなエリアを限定しないことも検討する必要があるかもしれませんが、現段階では、難聴取を解消することが最大の目的」と説明する。また「今回の試験配信にあたり、権利者の皆様は非常に協力的でした」ということだ。

ラジオというメディアの必要性を高く評価する人は、権利者の中にも非常に多く、ラジオの可能性を広げる、こうした新しい試みには積極的だったということだろう。

この試験配信は11月末までの予定で行われており、それ以降は実用化される方向だ。


地上波を補完するradikoのユーザー層

radikoアンケート_利用意向

radikoを今後も利用したいという人がほとんどを占めており、ユーザーに非常に好評であることがわかる。

radikoアンケート_変化

「音質が良いと感じた」「電波が入りにくいラジオ局の放送が聴けるようになった」というリスナーが非常に多い。

radikoアンケート_性年齢

地上波リスナーは60代の女性がボリュームゾーンだが、radikoのユーザーは30〜40代の男性が多く、ネットユーザーよりもその傾向が強い。

radikoアンケート_ながら

radikoを聴いている時に何をしているかという質問に対して、パソコンでのネットサーフィンをしながらと答えたユーザーが圧倒的に多いが、ついで男女を問わず仕事が多い。女性で家事をしながらが多いのもパソコンの一般家庭への普及を感じさせる結果だ。

3月15日にradikoでサイマル配信を開始すると、広告などは一切しなかったにもかかわらず、人気は上々。協議会の予想以上のアクセスがあったようだ。

スタートした最初の週の聴取人数は524万人に達し、それ以降も1週間約300万人前後で安定している。

「更に驚いたのはアンケートの回収数です。4月に2週間にわたってアンケートを採ったのですが、派手な告知をしたわけでもなく、ホームページにバナーをおいただけで、2万2000サンプル以上の回答があったのです」

それだけ利用者の期待も大きかったということだが、そのアンケートの内容も協議会にとって喜ばしいものだった。聴取者の9割を超える人がradikoを「是非利用したい」と回答。実際に聴取したリスナーからの高い評価を得ることができた。
しかもユーザーは「音質の良さ」や「電波の入りにくい局が聞ける」という反応を示した。これは今回の試験配信の目的が達成されたということだ。

更にユーザーの属性を調べると、「ホワイトカラーのビジネスパーソン」「ラジオ聴取時間が長く、特に夜の時間帯に聴いている」「ネットサーフィンをしながら・仕事をしながら聴いている」といったradikoのユーザー像が見えてきたという。

「radikoのユーザーは30〜40代の男性が多いという傾向が分かりました。積極的な告知活動をしていない現状では、インターネットユーザーが多いわけですから、その特性に引っ張られているところはあるのですが、それでもインターネットユーザーの一般的な特性以上に強い傾向を示しています」

地上波のリスナーは60代以上の女性がボリュームゾーンのため、明らかにリスナーの属性が異なる。また何をしながら聴いているかという調査では、地上波のリスナーでは、車を運転しながらの男性リスナーや家事をしながらの女性が多かったが、radikoのユーザーは休憩中や仕事をしながらという方が多く、地上波リスナーを補完する関係となっているようだ。

「radikoで初めてラジオを聴いたという人もいます。そういう方にとっては、ラジオはオールドメディアではなく、ニューメディアだったわけですね。もちろんradikoを聴いて、もう一度ラジオを聴くようになったというオールドファンもいました」

ラジオをIPで配信することで、新しいリスナーを生み出すことができるという可能性がこの試験配信によってわかってきたわけだ。同時に、こうしたリスナーの反応がすぐにわかるというのもネット配信ならではと言えるかもしれない。


radikoアンケート_変化01

radikoによって、ラジオへの接触が増えた。初めてラジオを聴いた「新規」のリスナーや、久しぶりに聴くようになった「復活」のリスナーが半数近くを占めている。


チャンネル合わせが楽なIP配信

radiko_link

radikoのトップページで放送局を選べば番組を聴取することができる。放送局別の小さいウインドウには、放送内容が表示されたり番組サイトや番組のメールアドレスが記載され、リンクでサイトやメールを起動することもできる。

radiko番組表

radikoの番組表ページでは、番組表が確認でき、番組ごとのサイトへのリンクをたどることもできる。

radikoガジェット

Webブラウザを起動しなくても、radikoが楽しめる「radikoガジェット」もダウンロードできる。

実際にradikoで番組を聴取するのは非常に簡単だ。Webブラウザで「http://radiko.jp/」にアクセスすると、対応する放送局が表示され、クリックすれば放送中の番組を聴取することができる。

こうしたインターフェイスは、従来のラジオからすれば画期的とも言えるものだ。従来のラジオでチャンネルを目的の放送局に合わせるには、無段階の周波数の中からチャンネルを合わせる必要がある。つまり、事前にその放送局の周波数を知っている必要があるのだ。

「昨年、小学生に人気のある芸能人が深夜放送に登場することになり、ラジオを買った小学生から、どうやったらラジオを聞けるのかと放送局に問い合わせがあったそうです」

ラジオという媒体の現状を物語るエピソードだが、確かにまったく初めての人が、従来のラジオで周波数を合わせるのは難しいかもしれない。その点、radikoでは表示された放送局をクリックするだけなので、周波数を知らなくとも、放送を楽しむことが可能だ。

昔はFMラジオの専門誌などが複数発売されていたが、現在はほとんど見かけることがなくなったし、新聞でもラジオの扱いは非常に小さく、一般の人がラジオ番組の情報を得ることが非常に難しくなった。この点、radikoでは詳しい番組表も掲載されているため、事前に放送内容を知ることもできる。放送する曲名を掲載している局もあり、気に入った曲をメモするのにも便利だ。
音だけでなく、文字情報を同時に得られるというのも、radikoの特性といってよい。番組へのリンク機能やメールアドレスリンク機能などによって、リスナーと番組制作者の距離が非常に近いというのもネットを利用したradikoならではの機能と言えるだろう。

「現在radikoは、Webブラウザで聴取する以外に、radikoガジェットというアプリケーションソフト、そしてiPhone、Android用のアプリも無料で提供しています。こうしたアプリでもいつでもラジオを聴取したり、番組表やメモ機能を利用することもできます」

ラジオは昔から「ながらメディア」と言われてきた。仕事をしながら、勉強をしながら、作業をしながら楽しむことができるメディアだ。こうしたラジオの良さを現代に活かす手段として、パソコンだけではなく、外出先でも手軽に利用できるiPhoneなどのスマートフォンでもアプリが提供され、それを非常に多くの人がダウンロードしたのは、当然の結果と言えるだろう。


radiko_link

iPhoneやAndroidでも楽しめるアプリが配布されている(画像はiPhone用アプリ)。


実用化に向けた課題と成果

この試験配信が終わったあとは、実用化ということになるわけだが、試験配信と実用化の違いはどういう点なのだろうか。

「8月末で終了する予定だった試験配信を3カ月延長した理由ですが、まず配信を続けて欲しいというリスナーの要望が非常に多かったというのが最大の理由です。更に技術的な問題解決と権利者への説明などに時間がかかることがわかり、延長を決めました。技術的な問題というのは、現在でも時々音声がとぎれてしまうことがあるということで、その技術開発を行っています」
実際、radikoではアクセスが集中しすぎると接続できなくなることがあるようだ。radikoは現在、IPv4のユニキャスト(32ビットのアドレスで1対1通信する)という方式で配信されているが、こうした問題を完全に解決するにはIPv6マルチキャスト(128ビットのアドレスで、1対複数で通信)にすることも検討しなければならないかもしれないという。

「試験配信が終わって実用化ということになっても、ユーザーの方にとっては大きな違いはありません。これまで同様に聴いていただくことができます」
リスナーは忘れがちだが、ラジオ番組は広告収入によって成り立っている。リスナーの高い評価をビジネスにどうつなげていくか。配信の技術的な問題だけではなく、ビジネスとしてどう成り立たせるかという点が実用化にとって非常に大切な部分だ。

「radikoはリスナーの方には非常に好感を持って歓迎していただいたのですが、ラジオ全体の中での圧倒的多数は、まだまだ地上波のリスナーです。radikoの盛り上がりをラジオ業界全体の底上げにつなげて、より良い番組作りにつなげて行きたいというのが、協議会の目標です」
radikoによるIP配信によって、ラジオというメディアの可能性は従来よりも広がったといえる。リスナーとしては、まず実用化が実現し、将来的にもradikoが継続して楽しめること、更にその利便性がアップすることやエリアの拡大など、これからの可能性に期待したい。

協力:IPサイマルラジオ協議会(http://radiko.jp/


加藤 三郎 0005 D.O.B 1956.6.18調査報告書 ファイルナンバー053号 地上波ラジオをストリーミング配信 「ネット配信でラジオの楽しみを広げるradiko」
イラスト/小湊好治
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