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ITの逆説 パラドックス日記 久米信行 その6 「ITの達人ほど紙を愛用する」

皆さんは日々のスケジュール管理に何を使っているでしょうか?ノートPCですか?その時の管理ソフトは何ですか?あるいはPDA(個人情報端末)ですか?それとも、ケータイや流行のスマートホンでしょうか?ひょっとしたら…紙の手帳に戻っていますか?

実は、私も、これらのすべてを試しては挫折を繰り返す一人です。どの方法も一瞬は便利だと感じても、そのうち不都合に出くわして断念。まだ理想のスケジュール管理法を見つけていないのです。

スケジュール管理投資の悲哀

思えば、20年前に私がビジネス人生を歩み始めた時は、手帳をポケットに持ち歩くのが基本でした。その頃のビッシリ予定が書かれた手帳を読み返すと、今もなかなか感慨深いものです。その後、ポケットに持ち歩けるような小さな手帳から、ファイロファクスに代表される大判のシステム手帳ブームが到来しました。誰もがカバンの大半を手帳で膨らませ、会議になるとドカッと手帳を置いたものでした。

しかし、ウインドウズ&インターネット時代になって様相は一変します。メールで予定を確認しあうことが増えた事もあって、パソコン上でスケジュールを管理するのが便利だと感じるようになったのです。しかし、問題はパソコンがデスクトップで持ち歩けない事。パソコンのスケジュール表の前で、昔ながらの手帳に転機する姿は滑稽に見えたでしょう。いちいちプリントアウトしては、そこに書き込み、また入力して…というアナログ・デジタル変換を繰り返したのも、この時期でした。

ところが、懐かしのIBMシンクパッド230など小さなノートパソコンが現れて、状況はまたもや変わります。それを持ち歩いているだけで、誰もが羨望のまなざしで見つめてくれました。しかし、やってみればわかるのですが、いざと言うとき起動に時間がかかるので、相手をお待たせして迷惑をかけてしまうのです。それではと、起動したまま休止状態で持ち歩くと電池が切れたりして…なかなか大変なのです。

そこで、ウインドウズCE機という大変便利な機械が登場しました。電源ボタンを押せばすぐ起動し、軽量で電池も長持ちというスグレもので、今でも私はシャープのテリオスを愛用しています。しかし、この便利さに気づく人が少なかったことと、普通のノートパソコンが日に日に安価になったことで、各社とも生産を中止。ソフトのバージョンアップはもちろん、無線LANアダプタなどの周辺機器の提供やサポートも止まって、今や絶望的な状況にあります。

これは、大ブームになった、PDA端末にも言えることでしょう。PDAの命名元アップルのニュートンは今、どこへ行ったのでしょう。一時、みんなが持っていたPalmは…。そしてソニーのクリエも生産中止だそうです。絶対多数しか生き残れないIT業界にあっては、少数派ユーザーはいつも冷遇されてしまうのです。

それでは、安価なノートパソコンでスケジュール管理をしましょうか? それも確かに一つのアイディアです。しかし、実際にやってみてわかりました。今や、会社用、自宅用、モバイル用とパソコンが3台もあるので、同期するだけでも大変です。また、会社のグループウエアでスケジュール管理をしている場合には、自宅のパソコンに同じソフトを入れたり、LAN接続することはできません。しかも、個人情報保護や情報セキュリティが厳しくなって、パソコンやデータを社外に持ち歩くことが難しくなった方も多いのではないでしょうか。

そこでケータイ多機能化時代の到来です。ケータイは、いつしかメール端末であると同時にスケジュール管理端末にもなりました。パソコンのスケジューラーと連動できるケータイも増えてきました。私も、なんとか一本指でメールや文書が打てるようになりました。しかし問題は、何と言っても画面の小ささです。気がつけば、私も厄年を過ぎ、長年のパソコン生活と老眼のダブルショックで細かい字を見るのが辛いお年頃になっていたのです。それに、万一落としたら、それもトイレや洗面台に…。と言いながらW-ZERO3が欲しくてたまりません。

IT達人が紙の手帳を使っている不思議

毎月参加している社外の勉強会や委員会に出た時、私の密かな楽しみの一つは、スケジュール調整の風景です。企業経営者から、IT担当者まで、情報管理の達人が勢ぞろいです。

しかし、日程調整のために取り出した道具が皆、違うのです。パソコン、PDA、ケータイ…さらには、いまだに手帳や、プリントアウトした紙を使っている方もいらっしゃいます。

しかも、何年もつきあいのある縁者を見ていると、私と同じようにスケジュール管理ツール探しの旅を続けて、試行錯誤を繰り返している人が多いのです。さんざん道具を試したITの達人の方が、むしろ紙の手帳に回帰していることも少なくありません。

さて10年後、わが敬愛するIT達人は、どんな道具でスケジュール管理をしているでしょうか?そして私は…。

久米信行(くめ・のぶゆき)プロフィール

1963年

東京都墨田区生まれ

1987年

慶應義塾大学 経済学部卒業 イマジニア株式会社入社 ファミコンゲーム開発

1988年

日興證券(株)入社 資産運用・相続診断システム開発

1991年

久米繊維工業(株)代表取締役に就任

現在

久米繊維工業(株)代表

受賞歴に日経インターネットアワード、経済産業省IT経営百選。日経パソコン、経営者会報、日経IT-Pro等で連載中。

著書に「メール道」「ブログ道」(共にNTT出版)

イラスト/小湊好治 Top of the page

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