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ITの逆説 パラドックス日記 久米信行 その8 「メール時代に年賀状がやめられない」

今回みなさんは年賀状を何通出したでしょうか?その年賀状はどのようにして作りましたか?年賀状製作や宛名書きにどれぐらい時間をかけたでしょうか?お年賀メールやブログで済まさなかったのはなぜですか?

インターネット、とりわけ電子メールの普及で、わざわざ手紙を出す機会は少なくなりました。お年賀のあいさつも例外ではありません。元旦早々からお年賀メールが飛び交い、昨今はお年賀ブログさえも珍しくはなくなりました。

そんなこともあって、日本郵政公社の発表によれば、平成19年用年賀葉書の発行枚数は37億9,000万枚で前年比92.8%、年賀切手の発行枚数は5,690万枚で前年比92.2%と減少傾向にあるようです。

ところが、わがポストの中身を見れば年賀状は決して減っていません。なぜかメールの達人までもが年賀状をくださいます。年賀状をやめたくともやめられないのでしょうか。

年賀状が減らないのは年賀状作成ソフトのせい

かくいう私も年賀状がやめられない1人です。メールマガジンなどで「年賀状からお年賀メールやブログに移行します」と公言して、はや何年になりますでしょうか。しかし相も変わらず年賀状を出し続けています。

それは、毎年変わらない顔ぶれから年賀状が届き続けているからなのです。この背景には、おそらく年賀状作成ソフトと、そこに付属する宛名データベースの「偉大なる力」があるでしょう。何しろ、ひとたびデータベースに宛名を登録してしまえば、そのメンバーには労せずして宛名が自動的に印刷されるのです。もう、年末に睡眠時間を削って宛名書きをする必要はなくなりました。

これが、なかなか便利なようで悩ましいのです。
誰かに年賀状を出したいと思ったら、あるいは誰かから年賀状が届いたら、すぐにデータベースに登録するでしょう。ここまでは良いのですが、いったん年賀状交換が始まったら、それをやめるのは大変です。どちらか一方が、まず一大決心をしてデータベースから削除する必要があるからです。

あなたには、そんな勇気がありますか?
たとえ、年に一度も会わず年賀状を交わすだけの間柄であったとしても、怨みがあるでもない相手の名前を年賀状データベースから削除するのは、どうにも気が引けます。ですから「どうせ1枚50〜60円のコストで済むのだからいいか」などと、どちらかが思っている間は年賀状交換はなかなか終わりません。

しかも「今年は年賀状を出さない」と決意してデータベースから削除した相手から「今年も年賀状が届く」可能性が極めて高いのです。こうして届いた年賀状を目にしながらも、あえて年賀状を出さない。

あなたには、そんな勇気がありますか?

年賀状が進化しているのは高解像度デジカメと高速プリンタのせい?

また一方では「年賀状を出す楽しみ」が増えているからこそ「やめられない」と感じる人もいるでしょう。
家庭用デジカメ、パソコン、プリンタの3点セットが進化したおかげで、誰もがスゴイ年賀状を作れるようになったのです。
今や、デジカメは1000万画素時代。メモリもハードディスクも安くなって、ガンガン写真を撮りためてはパソコンにストックできます。まさに「下手な写真も数撮りゃ当たる」です。誰もが海外や国内を旅して回る時代、小さなお子さんのいる「親馬鹿世代」ならずとも年賀状用の写真には事欠きません。年賀状でひそかに自慢したい(?)わけです。
もちろん手描きのイラスト、絵画、書道もデジカメで簡単に年賀状の素材に取り込めます。多趣味な人、習い事をしている人が増えている中で、年賀状は絶好の作品発表機会なのです。おおげさに言うなら年賀状で自己表現。

それなのに年賀状がやめられますか?
あとは、フリーソフトやデジカメ・プリンタのおまけについてきた画像加工ソフトで、ちょっといじれば、独自の年賀状が簡単に作れます。年賀状作成ソフトにあらかじめ大量に用意されたイラスト集と組み合わせても良いでしょう。

これまでなら、こうしたフルカラーの手作り作品をプロに印刷してもらうのは、予算や最少発注数の点で無理がありました。しかし、今なら家庭用の安価なプリンタで十分に高品質な印刷が可能になっています。

日本郵政公社もすかさずインクジェット専用ハガキを出したので、買ってきた年賀ハガキを50枚もご家庭用プリンターにセットしておけば、1時間かからずともキレイに高速印刷できるのです。

昔、木版画で多色刷りの年賀状を何日もかけて作っていた時の苦労を思い返すと、まさに夢のようです。

それなのに年賀状がやめられますか?

毎日のようにメールを交換し、ブログやSNSで顔を合わしている人が増えています。しかし、それとこれとは話が別。どうやら年賀状は年賀状でやめられそうにありません。いや、むしろ、自分のブログやSNSのことを、年賀状を通じて疎遠な友人たちにも知ってもらいたいのです。

これからは、年賀状が減りこそすれ増えそうにはありません。しかし年賀状が無くなることもないでしょう。個人それぞれのパソコンに宛名データベースが残り、自慢したくなる写真や作品が蓄積されている間は、年賀状も出さずにはいられないのです。

久米信行(くめ・のぶゆき)プロフィール

1963年

東京都墨田区生まれ

1987年

慶應義塾大学 経済学部卒業 イマジニア株式会社入社 ファミコンゲーム開発

1988年

日興證券(株)入社 資産運用・相続診断システム開発

1991年

久米繊維工業(株)代表取締役に就任

現在

久米繊維工業(株)代表

受賞歴に日経インターネットアワード、経済産業省IT経営百選。日経パソコン、経営者会報、日経IT-Pro等で連載中。

著書に「メール道」「ブログ道」(共にNTT出版)

イラスト/小湊好治 Top of the page

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