都内某所の高層ビルにある、その会員制診療所は、看板らしい看板もありません。おそるおそるインターホンを押すと、重々しい木の扉が開きました。ホテルのような受付で名前を告げると、礼儀正しい女性アテンダントがロッカールームに案内してくれました。
そこで、作務衣のような受診着上下とフカフカのガウンに着替えると、慌ただしい一日の始まりです。サロンのソファーに腰掛けてくつろぐと、次から次に女性アテンダント登場。
「久米様、お待たせいたしました。次は****の検査でございます。」
と、秘密の小部屋に案内されては検査の繰り返しなのです。
陽光差し込む明るい廊下を歩くと、突然、扉が開いて「窓の無い診察室」が現れます。そこには、大抵、これまで見たこともないマシンが鎮座しているのです。
素晴らしいマナーと笑顔で迎えられると、傍らにはビッグブラザーの手先のような機械。そこに横たわり検査の準備が整うと、すぐに機械は作動開始。何をされているかはわかりません。
時には検査技師も力を貸して、心臓に機械を当てたり、腹部をロボットの手のようになで回したり。更には麻酔で体がしびれるなか、体内に触手を突っ込まれるのです。
まさにまな板の上の鯉、あるいは宇宙人にさらわれて調べられる地球人。されるがままに、何やら分からぬ検査が終わるまでホウけるしかありません。
少しずつ薄れゆく意識の中で、私は名画『ジョニーは戦場に行った』の恐ろしいラストシーンを思い出していました。このままベッドにくくりつけられたまま、誰にも聞こえないSOSを出しながら、私の人生は終わってしまうのではないかと。
幸い最後の検査までたどりつき、夢うつつの状態から現実社会に戻りました。麻酔でふらふらになりながら案内された先は、ずらっと並ぶマッサージチェア。そこには既に検査を終えた人たちが熟睡しています。このままマトリックスにつながれるのではとオノノキつつ、座るやいなや高いびき。もう肉体と精神の改造が終わってしまったに違いありません。