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今月のテーマ:「花火」

日本の夏の風物詩として真っ先に描かれる花火。古くから、その一瞬の美しさが刹那的にとらえられ、打ち上げ花火、線香花火、仕掛け花火など比喩的に引用された職人芸も、今ではITの普及とともに、臨場感あふれる映像でバーチャルな体験も可能になりつつあります。しかし浴衣、団扇とともに生で楽しむ花火大会が、以前にも増して多くの人を引きつけるのは、夏を惜しむ気持ちが年々我々の心に高まっているからではないでしょうか?
今月のテーマは「花火」です。


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CINEMA:ポンヌフの恋人

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監督・脚本:レオス・カラックス
撮影:ジャン=イヴ・エスコフィエ
出演:ジュリエット・ビノシュ/ドニ・ラヴァン/クラウス=ミヒャエル・グリューバー/ダニエル・ビュアン
初公開:1992年
革命200周年に沸くパリを舞台に描かれる剥き出しの愛の形

一度観れば決して忘れることのできない花火のシーンといえば、この映画において他にないだろう。これはフランスの奇才レオス・カラックスが、資金難のため幾度となく撮影中断の憂き目に遭いながら、3年がかりで完成させた愛の神話である。
パリで最も美しいと称されるポンヌフ橋で出会った天涯孤独の青年アレックスと、失明の運命にある女子画学生ミッシェル。互いの孤独を確かめ合うかのように惹かれあい、橋の上で暮らし始めた二人は、革命200周年で街中が花火で彩られる夜、その愛を爆発させる。だが愛が深まれば深まるほど、日に日に目が見えなくなっていくミッシェル。ある日、ミッシェルの両親が出した捜索願から目の治療法が見つかったと知るものの、彼女を手放したくないアレックスは、街中の捜索願ポスターに火を付けてまわる。
ポンヌフが仏語で「新橋」を意味しながら、その実パリ最古の橋であるように、愛せば愛するほど、その相手が見えなくなるという、愛が持つ根源的なパラドックスを描いてみせた本作。アレックス役には、カラックスの分身ともいうべきドニ・ラヴァンが扮し『ボーイ・ミーツ・ガール』『汚れた血』に続くアレックス三部作の完結編とも言われているが、ミッシェル役に、当時、実生活でもカラックスのパートナーだったジュリエット・ビノシュを起用したことで、剥き出しの愛の形がより鮮烈に炙り出された。
製作が困難を極めたのは、ポンヌフとその周囲の背景をすべてセットで作り上げたことが大きな原因だが(というわけで、それだけでも一見の価値あり)、ビノシュによれば、花火のシーンは真冬に行われ、打ち上がる花火を背景に水上スキーをしなければならなかったのは、長い役者生活でも特に緊張を強いられたシーンだったとか。カラックスとビノシュ、製作サイドで何度も意見が交わされ、二転三転したラストシーンの行方もぜひ映画で確かめていただきたい。

イラスト:小湊好治
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BOOK:花火百華

刹那に煌き、散る美しさ。「花火好き」が送るメッセージ

本書の筆者、小野里公成氏は、花火に心底魅せられた一人。花火好きが高じてライフワークとして花火の写真を各地で撮り続けるとともに、花火に関する様々な情報を『日本の花火』(http://japan-fireworks.com/)ホームページ内のコンテンツ「花火賛歌」で発信もされている。「多くの人々に花火の魅力を知ってもらいたい」という、純粋な思いから発信される情報はどれも安心して信頼の置けるものばかり。筆者自身が撮影した写真も公開されていて、その鮮やかで華やかな写真を観るだけでも、今まで見過ごしてきた花火の美しさ、不思議さが垣間見える。
筆者は花火の魅力の本質を「刹那美」と捉える。発明以来さまざまな工夫が重ねられ、複雑化した花火だが、意外なことにその製造工程のほとんどは手作業。合理化が遅れているのではなく、手作業でしか進められない工程ばかりだからだと言う。膨大な時間と精緻を尽くした技術の結晶である花火は、わずかコンマ何秒という短い瞬間に咲き、散ってゆく。そのはかなさ故に花火の美しさは人の心の琴線にふれ、色褪せぬ思い出として胸に刻まれるのだろう。
本書には花火の基礎的な知識から楽しみ方まで、多様な内容が載せられているとともに、豆知識も豊富。例えば「たーまやー」「かーぎやー」という恒例の掛け声。「玉屋」も「鍵屋」も江戸時代に実在した花火屋の名前。もともとは歌舞伎で役者に対して屋号で声を掛けるのと同じだが、日本全国どこでも同じ掛け声、というのは不自然なこと。本書でも述べられているように、花火大会で作り手が分かったら、良い花火が上がった時にはその屋号や会社名を叫ぶことで、きっと大歓声の中でも花火師の心に響くことだろう。
ネットの普及は今や花火の実況中継も可能にしていて、本書でも筆者おススメのサイトがいくつか紹介されている。本書と併せて活用すれば、花火の楽しさも倍増間違いナシ!

BOOK
小野里公成 著 
発行元:丸善ライブラリー/980円(税別)
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