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『ロスト・イン・トランスレーション』
監督・脚本/ソフィア・コッポラ
出演/ビル・マーレー、スカーレット・ヨハンソン
DVD発売元/東北新社
¥3,990(税込)
©TOHOKUSHINSHA FILM CORPORATION. |
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映画手法の一つに「グランドホテル形式」というのがある。映画ファンならご存知だろう、1933(昭和8)年の名作『グランド・ホテル』から命名された手法で、”一定の場所で繰り広げられる群像劇”のことを言う。
さまざまな人が一堂に会すホテルは、まさに人生の縮図。訪れるゲストにとっての非日常だけでなく、そこではホテルで働くスタッフの日常も交錯し、人の数だけドラマがある。時に匿名も許されるその空間は、殺人犯の隠れ家にも禁断の愛の巣にもなり得るし、もしそのホテルが言葉も文化も違う異国の地にあるのなら、部屋は”孤独の砦”になるかもしれない。
本作は、女優、デザイナー、カメラマンと多彩な才能に恵まれた(そして、あのフランシス・フォード・コッポラの娘でもある)ソフィア・コッポラが、東京にインスパイアされ、彼女の豊かな感受性のままに綴られた魂の物語である。CM撮影のために来日したハリウッドスター(ビル・マーレー)と、カメラマンの夫に同行したもののホテルに取り残される若いアメリカ人女性(スカーレット・ヨハンソン)。二人は共に、東京という巨大で複雑なメトロポリタンに不安や戸惑い、疎外感を感じ、気持ちを通わせていく。日本独特の慣習やカルチャーをカリカチュアしすぎた面もないではないが、二人の繊細な心の移ろいは、外国人ならずとも、東京で暮らす人々にさえ深い共感を呼び起こすに違いない。
そして、この映画に絶対不可欠な存在として登場するのが、パーク・ハイアット東京。コンテンポラリーでスタイリッシュなインテリアは、東京に迷い込んだ二人の孤愁をメランコリックにあぶり出し、どこまでも美しい舞台装置として記憶に刻まれる。 |