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今月のテーマ:「ホテル」

高級外資系ホテルの相次ぐ進出で「ホテル戦争」と評される東京都心部。クリスマス、年末年始をホテルで過ごすシティリゾートは、景気回復のニュースと共に盛り上がりを見せています。開業ラッシュは2007年まで続くという東京ホテル戦争。そんな話題をエンターテイメントとしてもっと楽しむために今月のテーマは「ホテル」です。


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CINEMA:ロスト・イン・トランスレーション

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『ロスト・イン・トランスレーション』
監督・脚本/ソフィア・コッポラ
出演/ビル・マーレー、スカーレット・ヨハンソン
DVD発売元/東北新社
¥3,990(税込)
©TOHOKUSHINSHA FILM CORPORATION.
トーキョーに迷い込んだ男と女の孤愁

映画手法の一つに「グランドホテル形式」というのがある。映画ファンならご存知だろう、1933(昭和8)年の名作『グランド・ホテル』から命名された手法で、”一定の場所で繰り広げられる群像劇”のことを言う。
さまざまな人が一堂に会すホテルは、まさに人生の縮図。訪れるゲストにとっての非日常だけでなく、そこではホテルで働くスタッフの日常も交錯し、人の数だけドラマがある。時に匿名も許されるその空間は、殺人犯の隠れ家にも禁断の愛の巣にもなり得るし、もしそのホテルが言葉も文化も違う異国の地にあるのなら、部屋は”孤独の砦”になるかもしれない。
本作は、女優、デザイナー、カメラマンと多彩な才能に恵まれた(そして、あのフランシス・フォード・コッポラの娘でもある)ソフィア・コッポラが、東京にインスパイアされ、彼女の豊かな感受性のままに綴られた魂の物語である。CM撮影のために来日したハリウッドスター(ビル・マーレー)と、カメラマンの夫に同行したもののホテルに取り残される若いアメリカ人女性(スカーレット・ヨハンソン)。二人は共に、東京という巨大で複雑なメトロポリタンに不安や戸惑い、疎外感を感じ、気持ちを通わせていく。日本独特の慣習やカルチャーをカリカチュアしすぎた面もないではないが、二人の繊細な心の移ろいは、外国人ならずとも、東京で暮らす人々にさえ深い共感を呼び起こすに違いない。
そして、この映画に絶対不可欠な存在として登場するのが、パーク・ハイアット東京。コンテンポラリーでスタイリッシュなインテリアは、東京に迷い込んだ二人の孤愁をメランコリックにあぶり出し、どこまでも美しい舞台装置として記憶に刻まれる。

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BOOK:マーティン・ドレスラーの夢

時代を駆け抜けた一人の男 その先にある景色とは…。

著者スティーブン・ミルハウザーは天才、鬼才の生涯を巧みに描く中篇小説の名手としても知られるが、本書はその独特の切り口を踏襲しながら初めて著した長篇小説。ピュリッツァー賞を受賞している本作は、フィクションでありながら作中当時に生きた人々の息吹を臨場感豊かに感じさせ、まるで良質のドキュメンタリーのよう。
舞台は19世紀末アメリカ。平凡な市民が、突如として億万長者として名を馳せることになろうとも不思議ではない時代。そんな時代に一介の葉巻商の息子から、自らの才覚のみを武器に身一つでホテル王にまで登り詰めた一人の男の姿を鮮やかに描き出す。
主人公マーティンが目指したのは、それ自体一つの世界として完結したホテル。内部の公園には木々が生い茂り、滝が流れ、本物の動物達が走り回る。民族衣装を着た商人との値切り合いが楽しめるバザールや、様々なアトラクションが盛り込まれた劇場の数々。客はホテルに居ながらにしてあらゆる自由を満喫する。しかしながら、やがてその行き過ぎた逸脱故に大衆の気持ちから遠ざかる…。
想像の範疇を遥かに超えたホテルのスケールと、その幻想的な描写とは裏腹に、マーティンが成功を収めるために用いた手法は極めてリアル。徹底的に指導されたサービスや、ブランド戦略、リスク管理等からは、今日のホテル業界の熾烈な競争の一端を垣間見ることができる。作品自体の面白さはもちろん、これからのホテル選びに新たな視点を加えてくれる一冊。

BOOK
『マーティン・ドレスラーの夢』
著:スティーブン・ミルハウザー
訳:柴田元幸
発行:白水社  
定価2000円(税込)
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