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品川デジカメ散歩
第11回「花と緑の道をゆく」  

4月といえば桜の季節。お花見に出かける方も多いのではないだろうか? 1838(天保9)年、江戸市中とその郊外の年中行事を記した『東都歳時記』にも桜の名所が紹介されており、もちろん日本人にとってなじみの深い花だ。
桜の開花とともに寒さも和らぎ、木々や草花が萌えるこの時期は、まさにお散歩の季節。今月は、そんな春の足音を感じに、植物と触れ合える場所を巡ってみた。




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星薬科大学

まずは星薬科大学へ。東急池上線戸越銀座駅から徒歩8分ほど。中原街道に面した校門をくぐり、銀杏並木を抜けるとアントニン・レーモンド設計の本館が目に入る。ドーム型の屋根を持つ、この建物は1924(大正13)年に、創立者の星 一(ほし・はじめ)が留学時に学んだコロンビア大学のロー・ホールを模して設計されたもの。星 一は、モルヒネやキニーネなどの医薬品を初めて国産化した人物。また一の息子であり、小気味よい語り口で知られる作家の星 新一をご存じの方も多いはず。
星薬科大学は、湿布薬の販売で成功を収めた一が、11(明治44)年、星製薬株式会社を創立し社内に教育部を設置。これが星製薬商業学校、星薬学専門学校と規模を拡大し、現在に至っている。
(所在地/東京都品川区荏原2-4-41)

星薬科大学
星薬科大学
星薬科大学。銀杏並木の奥に見えるのが本館

星薬科大学薬用植物園本館右手が、目指す薬用植物園。1941(昭和16)年に、星薬学専門学校として開校した際、約1万2000平方メートルの薬用植物園が設置され、1117種もの植物が栽培されていたというが、戦争などを経て、現在は約3000平方メートルに規模を縮小。民間薬や漢方、医薬品の原料となる植物、約800種が栽培されており、植物一つひとつに、植物名、薬効、成分が記載された看板が付けられている。

園内には、日ごろよく目にするフルーツやスパイスも栽培されている。マンゴー、パパイア、ドリアン、ザクロ、カリンにナシ。ミントにサフラン、ローズマリー、ハッカ、カミツレ、アーティチョークなどなど。それぞれに解熱、鎮痛、強壮などといった薬効があることをご存じだろうか? また、パチョリやビワモドキ、コラにカワカワ、ウコンにアコンにミッキーマウスノキといった、名前を読み上げるだけで笑みがこぼれてしまう植物も。可愛い名前とは裏腹に有毒なものもあり、「へぇ〜」の連続。
毎年5月と10月には、品川区民を対象に薬草見学会を開催しているそうなので、この機会に植物について学んでみるのはいかがだろうか。
開園時間/平日 9:00〜16:30、土曜 9:00〜12:30、日曜日・祝祭日・大学の休暇期間は休園

星薬科大学薬用植物園
星薬科大学薬用植物園
星薬科大学薬用植物園
すべての植物に付けられた看板。薬効を知ることができる(写真上)。栽培係の岡部さん。丁寧に手入れをなさっていた(写真下)
都立林試の森公園

都立林試の森公園続いては都立林試の森公園へ。ここは1978(昭和53)年まで旧林野庁の林業試験場だった場所。89(平成元)年に都立公園として開園し、現在は近隣住民だけでなく遠方からも人々が訪れる憩いの場となっている。
面積約12万760平方メートル、樹木数は何と約6732本! 園内には、デイキャンプ場や、遊具を設置した冒険広場、トンボやおたまじゃくしが観察できる川や池、芝生広場などがあり、散歩や読書、ジョギングなど、思い思いの場所で過ごす来園者の姿が見受けられる。
実は、ここは先の星薬科大学とつながりがある場所。大学校舎と薬用植物園が進駐軍に接収されていた戦後間もないころ、この公園(当時は「農林省農林試験場」と呼ばれていた)の一部を借り受け、植物を移植していたそうだ。
園内は、国内外の珍しい木々でいっぱい。4月は桜、5月ともなれば、新緑がまぶしいことだろう。木々の息吹を肌で感じ、思わず深呼吸。外周の園路は一周約45分で回れる。

都立林試の森公園
都立林試の森公園
都立林試の森公園。木々の匂いが充満している

林試の森公園の東門を出て石古坂を上ると「かむろ坂」。東急目黒線に沿って山手通りまで続く坂の両側には、桜の木が植えられている。
「かむろ」は漢字で書けば「禿」。髪を短く切りそろえた、おかっぱ頭を指すのだが、遊女修行中の少女――少女といっても10歳になるかならないかの年ごろ――も、おかっぱのような髪型にしていたことから、「かむろ」と呼ばれていた。そんな遊女修行中の少女の悲話がもとになり、「かむろ坂」と呼ばれるようになったという。

かむろ坂
かむろ坂
かむろ坂。両側には桜の木が並ぶ
目黒川

目黒川といえば、世田谷区、目黒区、品川区を貫いて、東京湾に注ぐ延長約8キロの川。川の両岸に見事な桜並木があり、春には大勢の花見客でにぎわう。足を運んだことがある読者もいるのではないだろうか?
この桜並木が誕生したのは、今から77年前のこと。集中豪雨などによる川の氾濫で、周辺地域はたびたび被害を受けていた。そこで護岸改修工事を開始。工事の記念に、地元の有志によって桜の木が植えられたという。
3月下旬から4月にかけては、桜の花から淡い緑色の葉桜への移り変わりを楽しめる。

目黒川
目黒川より大崎方向を見る。3月下旬になれば、水面に覆い被さるような満開の桜を見ることができる

夕闇迫るころ、五反田駅に到着。ここで本日のお散歩は終了。

JR五反田駅前
JR五反田駅前
JR五反田駅前
夕闇迫る五反田駅
 


写真をスライドショーで見る植物について学ぶことが多かった一日だった。
改めて街を観察してみると、普段足早に通り過ぎてしまう道端にも数多くの植物が群生していることに気付く。都市の中でも、逞しく生きているのだなぁと実感。
季節の節目に、もう一度、上記コースを巡ってみるのもいいかもしれない。
また新たな発見があるはずだ。

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イラスト/小湊好治 Top of the page

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