◆始めに

個人的な知り合いで元の上司でもあった編集長に頼まれ、「アメリカンIT」のテーマの 内、アメリカ西海岸での状況について「シリコンバレー便り」として書いていきたい。筆 者はサンフランシスコ市に住み、サンタクララ市(シリコンバレーと言った方が分かりや すい)の米国大手ハイテク企業で仕事をしているので、多少はこの辺の事情には明るい。
内容についてはあくまでも筆者の見た範囲で西海岸特有の事も含まれているというこ とを、あらかじめお断りしておく。アメリカは広大であり州ごとに規制や習慣も異なるので 、一言でこれがアメリカだと言うことなどとてもできない。

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◆アメリカ携帯事情 (その1)
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2002年8月、いよいよアメリカでも3G(第3世代携帯電話)のサービスが開始され、こ れから続々と新しい携帯機器が発表になる。 米国ではFCCのウエブサイトが公開さ れているのでどんな新しい機器が発表されるのか事前に判るのはすばらしい。ちな みに筆者が今買おうと思っているのは、京セラ製のスマートフォンで、すでにFCCで 認可されているのでもうすぐ発売である。しかしながら一般の人が3Gに移行して新し い携帯をこの秋買うかというと 筆者はかなり疑問があると思う。少なくとも筆者です らすぐに3Gサービスに移行するのは、ためらいがある。

この事を理解して頂くためには、まず一般のアメリカ人がどのように携帯電話(以下 ケータイ)を使っているかを知る必要があると思う。約20年前筆者が始めて米国を訪 れた時、携帯電話など一切なかった。当時あったのは自動車電話で、レンタカーを 借りるとき注文すれば用意してくれたのを思い出す。その影響もあって日本にいる ときもNTTの初期の携帯電話(自動車電話を携帯できるようにしたもの)を使い始めた。
仕事の関係上どこからでも常時連絡を取合う必要があったので、いつもケータイをノ ートパソコンと一緒に持って歩いていた。とても重かったし、そのせいで良く鞄が壊れ たのを思い出す。 閑話休題。

アメリカではビジネスパーソンなら、まずページャー(ポケベル)とケータイを腰に差し ている。日本と違ってストラップはつけていない(つけられない)のと胸のポケットに はいれない。日本ではポケベルはほとんどなくなったのではないかと思うが、アメリ カではまだまだ全盛であって、そのサービスもいまや2Wayインターネット・メールに なっている。代表的なデバイスとしてはモトローラのTalkAboutT900とかHipTopとか がある。どちらもポケベルの大きさでキーボードとモノクロ(バックライトつき)液晶が ついている。基本的にページャーの900Mhz無線を使っているので常時ONかつほと んどどこからでもメールの送受信ができるのが最大の魅力である。会社のメールに 連動するものとしては、RIM社のBlackBerryもかなり使われている。パームPDAより 少し小さくかつ薄くてキーボードがついている。もちろん腰に差す。液晶はモノクロで 最近電話機能がついた機種も出てきている。

見た目はハンドスプリング社のTreoと似ているがTreoはBlackBerryのコピーでしか も個人用である。BlackBerryは会社のOutlookサーバーにアクセスして会社のメール を24時間、読み書きするのがその主たる用途である。そのため個人で買うと言うより 会社が買う商品である。HipTopはT-Mobile(ドイツテレコムの子会社)3Gの目玉の一 つとして売り出そうとしている物だがアメリカ製である。日本の2Gケータイと近い仕様 とも言えるし、ポケベルサイズでキーボード付きとアメリカ人好みの仕様なので売れ そうな気もする。証券アナリストなどはこれが3Gの起爆剤だなどともてはやしている。 T-Mobileは既存のV-Stream と言うプロバイダーを買収してアメリカに出てきたわけ だが、サンフランシスコ市内にもこの数ヵ月でかなりの新規店舗が開業された。有名 モデルを採用してのTVコマーシャルもVerizonやATTに負けないくらいのスポット数で ある。アメリカ(カナダを含む)におけるドイツの経済進出は最近著しい。

さて、個人のケータイとなると今やアメリカでもほとんどの人がケータイを持っている と思われるが例外は極低所得層と子供(高校生以下)であろうか。現在アメリカ恒例 のBack To School セール中で(アメリカでは夏休みが終わる頃に新学期のために 大量の文房具や洋服などの買い物をする)、報道によると大学生の欲しいものナン バーワンがケータイだそうである。高校生ではケータイを持とうと思ったら親が買い与 えないといけない (電話機は無料になるが電話代は親持ちになる) せいかあまり持 っているのは見たことがないし、一部の金持ち家庭に留まるであろうと思われる。 その意味ではまだまだケータイの普及する余地は大きいとも言える。

筆者の会社はサンフランシスコ市内にサテライトオフィスがあるので毎週1回は市内 に通っているが、路面電車内でケータイを使って喋っている人は結構見受けるし,  PDAを使っている人やBlackBerryを使っている人も結構見掛ける。昼間市内を歩くと かなりの人がケータイで話しながら歩いている。 日本と違うのは、かなりの人がハン ズフリーと呼ばれるイヤフォンマイクを使っていることだろうか。 筆者も何組か持って いるように、ハンズフリーはアメリカではかなりのビジネスになっているようだ。まあ 日本のストラップと思えばよいだろう。

最近アリゾナ州まで日帰り出張に行ったのだが、どちらの空港内もケータイで話しな がら歩いている人だらけであった。空港はアメリカでもっとも電話機が設置されている 場所だろうと思う。以前は空港に行くと電話機が空くのを待っている人でごった返して いたのだが、今や電話機の回りにはほとんど人がいなくて、いるとしてもパソコンをつ ないでいる人だけであつた。

基本的にアメリカ人は話好きであり、電話はかなり頻繁に使う。仕事でも電話で話を することはかなり多い。 会議などもほとんど電話で行うことが多い。TVドラマや映画 を見ても電話を掛ける場面が結構多いのに気付くだろう。基本的に電話料は月 12ド ルで地域内は掛け放題であるので、インターネット・ダイアルアップ接続をふくめて、 ランドライン(地域内)の電話利用はタダに近い感じがある。 これに対しアメリカの携 帯電話料金は、通話料込みが普通で、夜間と週末は無料ないし月当り50時間まで 無料という体系がほとんどである。通話料の最低はだいたい月200分迄からで、これ だと月曜から金曜昼間毎日10分間の通話ができるが、筆者の周りはだいたい月400 分(一日20分)くらいのコースに入っているようだ。これだと月50ドルから70ドルくらい かかる。インフラ整備の費用や税金などが結構高く、最終支払いは月70ドル−100 ドル位になるだろうか。皆かなり無理して払っているような感じである。

面白いことにカリフォルニアではケータイのかなりは、車のなかで使われているそう である。車でドライブしていると、前を走っている車のドライバがケータイを使っている のがすぐ判る。首を傾けて右手が耳にあるのがその特徴で運転スピードも一定で遅 いか不安定であるので事故も多い。 要注意。

ここで読者の方はお気付きになったと思うが、アメリカでの電話機の用途はもっぱら 話をすることであり、かつアメリカ人はとても話好きだと言うことである。そういうアメリ カ人に3G電話機で話す以外にあれこれできるといってもあまり興味を示さないので はないかと思われる。電話機は電話機なのである。チャットをするのであればページ ャーをベースにしたTalkAboutとかHipTopの方が常時接続だし使用料も月30ドル以下 と、とても安い。インターネット・サーフィンをするのであれば会社か学校か、または家 に帰ってからすれば良い。 基本的に家まで30分以内(昔だったら15分)で帰れるので 、帰宅の途中で話す以外の事をケータイでするとは考えにくい。

具体的な3GサービスとしてはATT (m-Mode)、SprintPCS (Vision), Verizon (VZW) そして T-Mobile が始まっているが、機器も少ない。その上、消費者購買意欲がこれ だけ低い時期にどれだけ新規需要が取れるか、かなり疑問がある。更に、今までの 電話代に加えて3Gサービス代金(どれもデータ当りいくらの料金, 例えばSprintPCS ” Vision”では月2メガバイトで50ドル)を取られる、となるといったいどれだけの人が月 100ドル以上も払って3Gに移行するか難しいところである。アメリカ人は良く判らない 物にはお金は出さない。これは今一番売れているアメリカ製と日本製の自動車販売 を見てみれば良くわかる。ローン利息0%、そして 2003年まで支払い不要だったら 買わないほうが不思議である。

筆者個人としては ハードウエアの変化に興味が有り、アメリカで今後どういう機器が 標準となるのかは関心があるので多少の投資は覚悟している。5、6年前にはソニー その他の日本製のケータイが目についたが、今はサンヨーの折り畳み式(CDMA)か、 パナソニック、ソニーエリクソンの (GSM―GPRS) 端末があるくらいで、モトローラ以外 はサムスンかLGなどの韓国勢が目につく。ただしスマートフォンではまだまだ京セラ (Palm OS)や東芝(Pocket PC OS)などの日本勢が韓国、台湾製と互角の勝負をして いる。 これらについては次回書いてみたい。


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