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◆ アメリカの産学協同を真似できるか?
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◆ 日米の産学協同の違い

日本の大学法人化を来年に控え、日経新聞などでもその動向が報道されるようになって来た。この種の日本の報道や雑誌の特集が、ともすれば世論を煽り過ぎなのは、昔から苦々しく思って来たが、相変わらず断定的な特集が多く、編集者の方々には今までその予想通りになったのか、過去の例を一度検証してみて欲しいものだ。センセーショナルな見出しにしたいことは判るが、マスコミが特定の動きを煽る様なことは有ってはならないし、これが日本の産業界をダメにしてしまった一つの理由と筆者はみているからだ。

この機会に、アメリカでの産学共同がどの程度のものか、筆者の知る限りでお話することで、基本的な体制が根本的に違うことを指摘したい。朝日インターネットキャスターには、日本と外国の大学とその研究に関するかなり詳しいコラムがあって、そのコラムニストの努力には頭が下がる思いだ。ここには日本の大学の基本的な問題が、かなり具体的な例で取り上げられている。もちろん日本の大学関係者からの批判も載っていて、バランスのとれたコラムとなっている。大変興味の有ったテーマは、博士号取得に関するもので、PhDと日本の博士号の違いなどが、実際の博士号取得者による投稿で浮き彫りにされていた。

アメリカの大学の後を追うならアメリカの大学を深く研究する必要があるのではないか?そしてどれが日本に適用出来て、どれは日本に適用してはいけないかを明確にする必要がある。文部省や通産省が口を出すのではなく、大学の自由に任せれば良いことではないのか?法人化ということで、またもや省庁の利害が先に出ているような気がしてならない。大学が法人化、会社化するということは、アメリカの様に学長は一般に公募して採用することも必要となろう。文部省や通産省がすべきことは大学の自由を保証することだろう。

◆ 人材の壁は取り払えるか?

アメリカでは、少なくとも筆者の知る限り、大学と産業界そして政治界に壁は無いように見える。大学教授で政府の要職に就く人、その逆の人、産業界のトップで政府の要職に就く人、その逆等々、毎日のように耳にする。また産業界では、例えばインテルを例に取ってみると、社長は大学の教授(しかもその分野では著名な人)であったAndy Grove(注1) やCraig Barrett(注2)などである。大学教授としても成功し、会社トップとしても成功している例はアメリカでは珍しいことではない。そして大学自身、例えばスタンフォード大学の敷地内には、色々な会社や研究所(例えばあの有名なゼロックス・パロアルト研究所)があることでも知られている。即ち、大学が産業界そして研究を補助しリードして来た訳だ。今回の日本の大学法人化が、どんな経緯でそうなったのか、筆者は知らないが、大学側から産業界へのアプローチであって欲しい。

筆者の経験から言えば、従来から優秀な日本の大学教授は産学共同でやって来ていると思う。半導体技術での東北大や広島大がそうだ。しかし、ともすれば日本の産業界は大学を利用することを好まず、会社独自に中央研究所などを設置して自前で研究をすることが多かった様だ。そのため優秀な日本の大学教授とアメリカの企業が連帯するケースが相次ぎ、これが80年代後半になってアメリカの半導体産業を立ち直らせ、再び世界一にさせた原動力ともなったのは明白な事実だ。今や日本の産業界はその中央研究所を解体するか、又は大学にその運営を委託するのか、の選択の時期に来ているのかも知れない。

◆ 産学交流は減る傾向か?

筆者が日本の会社に入った60年代には、日本の会社も技術者をアメリカの大学(例えばスタンフォード大など)に積極的に留学させていたが、70年代後半になると、どこでも辞めてしまっている。帰国後には外資系企業に引き抜かれてしまうことも原因のひとつかも知れない。

将来的に見ると、アメリカでは大学に研究を依頼することが減少する傾向にあるとも言われているので、今からだと日本は更に先を行く必要が有るかも知れない。大学に研究を頼むと会社の機密が公になり、競合他社との競争力が低下する可能性があることがその理由と聞く。

アメリカの大学ではその組織、大学教授の名前、研究内容、スポンサー、補助金等、全て大学のウエブサイト(.EDU)を通して公開されている。最近日本の大学はどうかと思って調べてみたが、大学教授の名前や研究内容はおろか、そのメールアドレスすら公開されていない。少なくとも教授名やその研究内容は公開すべきだろう。

◆ 卒業基準が甘すぎる日本

一般に日本の大学はその数が多過ぎるようにも思うし、もっと大学を少なくするか、卒業できる人(基準)を絞り込み、真に実力のある人のみを卒業させることが必要となろう。アメリカの大学卒業生はSummer Coop.(夏季実習)で、会社の実務を経験しているだけでなく、その日から直ぐに仕事が出来るように教育されて来ている。その教育は筆者の知るところ、Elementary School(小学校)から始まっているように思う。だから大学の法人化・会社化をしても、それだけでは解決にはほど遠い。

会社での新入社員教育も日本とは大きく異なり、筆者の会社では1日しかなく、かつその内容も極めて実務的なものだ。新入社員は9月の卒業時期を除けば随時入って来る。入社時期は大学卒業時期(即ち単位取得時期)または本人の都合に依るので、必ずしも一定ではない。最近では過去1年以内に大学を卒業した人を含めて新卒のことはRCG(Recent Collage Graduate)と呼んでいるくらいだ。

筆者自身、大学の卒業研究では、かなり産業界寄りの研究をし、当時の大企業と同じ結果を同時期に格段の安い費用で出すことが出来たが、これは担当の教授の指導に依るもので、防衛大学から来られたその教授は産業界にネットワークがあり、考え方も国立大学の教授としてはかなり変わっていたと思う。それが筆者の今の考え方にまで、大きく影響していることは言うまでもない。このような教授に新入生の時から接していれば、一般と専門教育も手抜きせずやっていたかも知れない。「良」や「可」でも卒業出来る様なシステムは見直す必要があるし、「優」の中身も吟味し直す必要が有るだろう。法人化を機会にこれらが見直されることを期待したいものだ。

(注1):Andy Groveはカリフォルニア大学バークレー校で教えていたが、彼が当時使っていた著書"Physics and Technology of Semiconductor Devices"1967年刊は、今でも世界中の大学や研究所で半導体物理を教える場合の教科書として使われている。現在はインテルの会長であるが、スタンフォード大学のMBAコースで教鞭も取っている。

(注2):Craig Barrettはスタンフォード大学で教鞭を取っている間に、品質管理・信頼性等の理論を確立した。現在はインテルのCEOである。


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