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なるほどテクノロジー
夢のエネルギー「燃料電池」の謎に迫る

石油の値段が上がり、二酸化炭素による地球温暖化が進んでいると言われる中、環境問題とエネルギー問題双方を解決する技術として注目を集めているのが、燃料電池です。魔法ともいえる最新技術は今、どうなっているのでしょう。


燃料電池が注目されるワケ

燃料電池は、電池という名前がついていますが、実は乾電池のように電気を蓄えるのではなく、電気を作り出す発電機です。燃料電池は、水素と、空気中の酸素を化学反応させることで電気を生み出します。理科の実験で行った、水の電気分解の逆と考えて良いでしょう。
燃料電池はシステムに使う素材の違いでいくつかの種類に分けられます。ここではクルマや家庭用に使用される事の多い固体高分子型燃料電池(PMFC)を例に説明しましょう。
PMFCでは、陰極(マイナス極)側に水素を送り込むと、陰極についている触媒によって水素が電子とプロトン(水素イオン)に分解されます。プロトンは電解質膜を通って陽極(プラス極)に移動します。同時に電子は、導線を通って陽極に移動します。この時に電気が発生するのです。その後、陽極側で一緒になった電子とプロトンは結合し、水になります。燃料電池による発電の際に発生するのは、この無害な水だけなのです。
また燃料電池のエネルギー源となる水素は、水を始め植物や鉱物資源など多様な物質から取り出すことができるため、石油に変わるエネルギーになる可能性もあります。燃料を燃やすわけではないので、地球温暖化の原因とされる二酸化炭素を出すこともありません。こうした事から燃料電池は、環境・エネルギー問題を解決する切り札として注目されたのです。
近年、特に燃料電池を重要視してきたのが、クルマ業界です。クルマ業界では、 1990年代初頭に日欧で燃料電池車(FCEV)の実験走行
燃料電池のしくみ 燃料電池のしくみ
が始まって以来、燃料電池開発に注力してきました。メーカー各社がこれまでに注ぎ込んだ開発費は総額で数千億円に達します。
更に日本やアメリカなどは毎年、燃料電池関連の研究開発に数百億円の予算を計上し、国を挙げて普及を目指しているのです。

 


燃料電池が走り始めた

クルマ業界では、燃料電池の開発競争が繰り広げられています。ヨーロッパの大手メーカーは現在、数十台のFCEVを世界中で走らせ、さまざまな環境下での実験データを収集しています。このメーカーでは乗用車のFCEVとともに、バスとしての利用を重視しており、同社が開発したFCEVバスは、既に実際に稼働しており、欧米だけでなく中国や東南アジア、オーストラリアなどで、一般のバスに混じって乗客を運んでいます。
日本の大手メーカーは、官公庁やエネルギー関連会社などに向けて、FCEVの市販(リース)を始めています。数は欧州メーカーのように多くはありませんが、技術的には大きく前身進しつつあります。
そのひとつが、FCEVの大きな技術的課題だった「氷点下での始動」を可能にしたシステムの開発です。燃料電池は発電時に水を排出しますが、この水がシステム内部で凍結すると、システムが始動できなくなるのです。寒い時にクルマが動かないのでは困ってしまいます。
あるメーカーは、特に凍結の不安が大きかった「電解質膜」の素材をまったく新しいものに変えることで問題を解決しました。同社は北海道札幌市という冬の寒さの厳しい土地にもFCEVを納入しています。
またあるメーカーでは、最近、話題になることの多いハイブリッドシステムと組み合わせたFCEV開発を進めています。FCEVは、低出力(低速走行)での運転効率があまり良くないため、苦手とする速度域を二次電池でアシストし、全体の効率を上げるのです。この考え方は、市販されているガソリン車のハイブリッド車と同じで、今では欧米のメーカーも同様のシステムを取り入れています。
とはいえまだまだ、FCEVには多くの課題が残されています。その最大のものが、燃料供給のインフラ整備です。これまでに国の補助金で数カ所の水素スタンドが建設されましたが、ガソリンスタンドのように数が増えないと普及は進まないでしょう。そのためには莫大なお金と時間がかります。
一方で燃料電池は、工場や家庭で使う定置式の利用が進んできています。定置式の場合、燃料電池が発生する熱で暖房をしたり、温水を作るこ とができます。排熱利用は、環境に優しいというだけではなく、目に見える費用対効果も生
FCHVの仕組みFCHVの仕組み
みます。こうした事から、排熱温度の高い種類の燃料電池(リン酸型燃料電池)はすでに、日本国内の200カ所以上の工場や事業所で稼働し、実用性の高さを証明しています。また家庭用燃料電池も、ガス会社などが市販を開始し、新しいビジネスモデルを目指しています。



まとめ

燃料電池が一般的になるにはまだ長い時間が必要ですが、将来的に重要な技術であることは間違いありません。もちろん、すべてが燃料電池に変わるということではありませんが、現在の、石油一辺倒の社会が不安定であることは否定できません。そう考えると、植物や水を活用できる燃料電池は、やはり夢の技術だといえるでしょう。自然の恵みを生かした燃料で電気を作り、排気ガスの出ないクルマを走らせる。22世紀にはそんな世界になっているかもしれません。

 

     

燃料電池の歴史は古い

燃料電池を使った発電の実験に成功したのは英国のグローブ卿で、何と1839(天保10)年のことでした。けれどそれから長く、燃料電池のことは忘れられていました。再び脚光を浴びたのは1965(昭和40)年、NASAのジェミニ宇宙船に搭載された時です。その後、NASAはアポロ計画でも燃料電池を採用しています。19世紀の作家、ジュール・ベルヌは、『神秘の島』の中で、未来では石炭の代わりに水を燃やすだろうと書いていました。ベルヌが今の燃料電池を見たら何と思うでしょうか。


燃料電池の燃料のいろいろ

燃料電池の水素は、いろいろな生成方法が考えられています。水を燃料にするという意味でもっとも未来的なのは、太陽電池の電気で水を電気分解するというもの。砂漠に太陽電池を配置し、水素製造プラントにするようなことも考えられています。植物から生成できるメタノールから水素を取り出す方法も注目されています。一時は、メタノール水素の生成装置を搭載したFCEVも期待されていました。ただクルマ用の装置は大きく複雑になるため、今はあまり採用されていません。他に天然ガスも使えるため、ガス会社が中心となり普及を目指しています。


燃料電池の用途はさまざま

固体高分子型燃料電池(PMFC)は、小型化できるのが特徴のひとつ。そこで電機メーカーでは、燃料電池を使ったモバイル機器の開発を進めています。モバイル機器では、燃料にメタノールを使います。クルマ用では大きすぎても、極小電力のモバイル機器であれば可能性があるのです。これなら充電の必要がなく、例えばカートリッジのメタノールを交換することにより連続使用が可能になります。実用化されれば、モバイル機器の役割が一変するでしょう。課題は、発電時の水の処理。飲んでしまえばいいのかもしれませんが、H2Oという純水に近い水は、実はあまり美味しくないのが難点です。


NTTドコモと富士通が開発した「FOMA端末用マイクロ燃料電池試作機」
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