時々、笑ってしまうようなアイデアに出会って、ごくまれにではあるが、それが思いがけなく実用的で感心することがある。しかし、このノートの場合は感心を通り越して感動的ですらある。雑誌やノートをめくるとき、平(ひら)をたわませるようにまるめて小口を広げ、利き手の親指の腹をずらしながら、ぱらぱらとページを繰る。この、言葉で説明しようとしても複雑で分かりにくい一連の動作を、我々は日ごろから無意識にこなしている。指先の感覚とはそれほど繊細なのだが、これが加齢とともに急に衰えてくる。コインやお札を数えるのが思うようにゆかない、文庫本のページを片手でめくることができない。メモ用紙が一枚ほしいと思っても何枚か一緒に取ってしまう。雑誌のページを繰って見たい記事を探し出すのに時間がかかるようになる。ああ、そうだった、子供のころもちょうどこんな風な歯がゆい思いをして、早く大人になって何でもうまく器用にできるようになるんだと、自分を励ましたことを思い出す。でも大人になりすぎるとまた子供の手に戻るのかなあ?
今、人生80年として、10歳から50歳の40年、ちょうど半分が器用な時期で、その前と後が不器用な時期だということに気づく。 |