一覧に戻る
COMZINE BACK NUMBER
ユニバーサルデザイン 益田文和
Vol.002 ノックするだけで使える万年筆
 

最近、また万年筆で文字を書く人が増えているという。
筆圧の変化をそのまま筆跡に残すペン先のしなやかさ、しっとり鮮やかなインクの色、適度な太さと重さを持ったペン軸など、ボールペンを始めとした他の筆記具にはない魅力が万年筆にはある。

文字を書き始める前におもむろにキャップを取るのも、万年筆ならではの仕草であり、そのちょっとした間合いに趣があって良い。しかし、そのキャップを回してはずすという動作には、どうしても両手を必要とする。片方の手で本などの資料を押さえていたり、電話機を持っていたり、荷物や子供を抱えていたり、あるいは何らかの病気や怪我で片手が自由に使えなかったりすると、この、ちょっとキャップを捻ってはずすという、なんともないはずの行為が、片手の指先だけでこなすにはどうにも難しい事がわかる。

このパイロットのキャップレスは、ボールペンのようにノックするだけでペン先が出てくる、その名の通りキャップのない万年筆である。実は、世界で唯一のこのキャップレス万年筆は昭和30年代後期に開発され、発売と同時に画期的な筆記具として国内外で高く評価された歴史と実績を持っている。当時は中学生から大人まで、このノック式の新機構と流線型のフォルムに憧れたものである。それから35年後に大ヒット商品として復活した背景には、日本の文字を書く道具として万年筆の良さを見直そうという機運とともに、その実質的な機能と使いやすさに対する開発者の配慮を、素直に受け止める使い手側の共感があると思う。

道具を進化させるのは技術だけでなく、人々の意識であり文化であることを教えてくれるデザインである。

益田文和(ますだ・ふみかず)プロフィール

1949年

東京生まれ。

1973年

東京造形大学デザイン学科卒業

1982年〜88年

INDUSTRAL DESIGN 誌編集長を歴任

1989年

世界デザイン会議ICSID'89 NAGOYA実行委員

1994年

国際デザインフェア'94 NAGOYAプロデューサー

1995年

Tennen Design '95 Kyotoを主催

1991年

(株)オープンハウスを設立
現在代表取締役。近年は特にエコロジカルなデザインの研究と実践をテーマに活動している

Top of the page

月刊誌スタイルで楽しめる『COMZINE』は、暮らしを支える身近なITや、人生を豊かにするヒントが詰まっています。

Copyright © NTT COMWARE CORPORATION 2003-2015

[サイトご利用条件]  [NTTコムウェアのサイトへ]