「もなか」といっても、中に入っているのは餡子ではない。実は何も入っていない皮だけの「もなか」である。かつては世界でも屈指のカトラリー、つまりナイフ、スプーン、フォークなど金属洋食器の産地であった新潟県燕市で「もなか」と言えば、それはステンレスの「もなか」のこと。薄いステンレス板をプレス加工でふっくらと膨らませ、これを二つ、ちょうど最中の皮のようにぴったりと合わせて、丁寧に溶接し、継ぎ目が分からないようにきれいに仕上げる。そうすると太くて握りやすく、なおかつ軽いカトラリーのハンドルが出来上がる。この技法は、通常しっかり握って力を入れて使うナイフの柄に使われる事が多く、スプーンやフォークは平べったい板状の柄を持っているのが普通である。
ところが、フランス料理の第一人者といわれる三國清三シェフが監修したカトラリー「グランメール」では、シリーズ全ての柄に「もなか」が使われている。小学生の食育活動にも熱心な三國シェフが、年配者にも優雅に食事を楽しんでもらいたいと監修を引き受けたこのカトラリーの開発には、福祉デザインを始めとして、人間工学や歯科など複数の専門家が参加している。太く握りやすく軽いグリップはもちろんのこと、ヘッド部も深さや大きさ、形状が日本人の唇に合わせて新たにデザインされ、取り上げやすく、持ちやすく、持ち替えやすく、すくいやすく、回しやすく、刺しやすく、切りやすいなど、日本人の体に極力負担をかけないためのさまざまな配慮がなされている。 |