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ユニバーサルデザイン 益田文和
Vol.021 鳥になりたかったキッチンバサミ
 

昆虫が小枝や葉っぱのまねをしたり、魚が岩の振りをしたりすることを擬態というが、ハサミが鳥の格好をすることは何と言うのだろうか。エイのように見える飛行機とか、貝のような携帯電話とかは、形から連想するイメージの問題だから、あくまでも見る側の勝手だが、このハサミは明らかに動物の足のような形の「アシ」で立っているし、長いクチバシ状の刃先といい、眼としか思えない留めネジといい、故意に鳥に扮しているとしか考えられない。キッチンバサミのキッチンをチキンと聞き間違えたとか、ハサミをササミと取り違えたとかの言い訳も通らない。このキッチンバサミはどうしたって鳥になりたかったのだと考えるのが自然だ。でも、何のために?

キッチンバサミというものは、頑丈な刃で野菜や肉や魚からパッケージまで、何でも切ってしまう、なかなか重宝な道具である。ところがこれが肝心な時に手元にない。粉や油まみれの手で引き出しをかき回して捜した経験は誰でもあるはずだ。そして、ナイフやスプーンの間に埋もれたハサミを見つけてもペタンと置かれた状態からは取り上げにくい。それならフックに引っ掛けておけば良いと思うものの、手に取ったハサミは持ち替えなければならないし、第一、刃先を下にしてぶら下げておくのは危険でもある。
もし、ハサミが立っていれば指掛けにスッと手を入れてサッと取り上げ、そのまま使えるし、雑然とした調理用品の中に置いてあってもよく目立つ。だからこそ、ちょっとやそっとでは倒れない左右に張ったアシを持って、しっかり自立していようと、このキッチンバサミは考えた。そして、たまたま人や犬より鳥のまねがしやすかった、ということなのだろう。そもそも、足の形から動物を連想するのはこういうものに生えたアシを見慣れないからで、これからはナイフにもスプーンにもマナイタにだってアシが付くかもしれない。そうなれば逆に「あの犬、まるでマナイタみたいだなあ」などと思うようになるのだろうか?

 
BIRD キッチンバサミ/Kai House
益田文和(ますだ・ふみかず)プロフィール

1949年

東京生まれ。

1973年

東京造形大学デザイン学科卒業

1982年〜88年

INDUSTRAL DESIGN 誌編集長を歴任

1989年

世界デザイン会議ICSID'89 NAGOYA実行委員

1994年

国際デザインフェア'94 NAGOYAプロデューサー

1995年

Tennen Design '95 Kyotoを主催

1991年

(株)オープンハウスを設立
現在代表取締役。近年は特にエコロジカルなデザインの研究と実践をテーマに活動している

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