スタインベックの『ハツカネズミと人間』で少し知恵の足らない大男として描かれているレニーは、ケチャップが大好きだ。1930年代、不況下のアメリカ西部の町を、空腹を抱え、職を求めてさまよう彼らにとって、ケチャップは贅沢で美味しいものの象徴だった。
かつてはミッキーマウスやポパイのような漫画にも、ハンバーガーやホットドッグにたっぷりとケチャップをかけるシーンが実にたびたび出てきた。その映像から味と香りを想像しつつ、アメリカ文化の豊かさに憧れて育った当時の少年少女達は、高齢者と呼ばれるようになってからもこの真っ赤な調味料に特別の想いを持っている。
さて、彼らが思いを遂げようと、いざハンバーグやオムライスにチャップをかけるべく手に持って構えると、あのフニョフニョなポリエチレンの容器は滑りやすく取り落としそうになる。あわててぎゅっと握ると、思いがけず大量に出て、料理が真っ赤になってしまいがっかりする。その一方、中身が減っていると今度はいくら振っても絞っても底の方にたまった分がなかなか出てこないのであきらめる。何たる悲哀。
日本のトマトケチャップ消費量の伸び悩み傾向と、消費者の高齢化との間にそんな因果関係があるかどうかは知らないが、容器の形と構造に機能上の問題があったのは確かだ。そうしたスクイーズボトルの欠点を見事に解決して見せたのが、ハインツの新型容器。逆さに立てて置くための大きなキャップ。しっかりホールドできる形をした少し厚めのポリプロピレン製ボトル。押しているときだけ開き、中身の出具合を自在にコントロールできる絞り口の構造。どれをとっても見事なデザイン・ソリューションだ。
気が付けば、フタを下にして置いたときにちゃんと読めるよう、ラベルが普通とは逆さまに貼ってある。ということはこのケチャップ、逆立ちをしているのではなく、底にキャップが付いているということになるのか? |