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COMZINE BACK NUMBER
ユニバーサルデザイン 益田文和
Vol.026 キャンドルライター
 

ヒトの文明は火を使うことから始まった、とよく言われる。それでは昨今のオール電化ブームは進化なのだろうか、あるいは退化なのだろうか。少なくとも現代の日本人が火を直接扱う能力は明らかに衰えている。それは若者とバーベキューでもしてみればすぐ分かる。市販の着火材がなければ炭火が熾せないし、積んだ薪の上から火を付けようとする。確実な後始末が出来ないのも火を扱った経験が少ないからだ。安全は経験から生まれるものなのに、子供や高齢者が火を扱うのは危険だという理由で、マッチやライターを使う器具が身の回りからどんどん消えてゆく。危険なのは普段タバコを吸うための使い捨てライターや飲み屋のマッチが、部屋のあちらこちらに無造作に転がっているような状態であって、火を付けるためのちゃんとした道具が、必要な時に使えるよう管理されて置かれていれば良いのである。そして火を使う作法をきちんと身に着けることこそ文化ではないのだろうか。火を使うこと自体が危険だからといって生活環境から遠ざけてゆくと、そのうちバースデーケーキにLEDが点灯するキャンドルを並べて吹き消すような、情けない事になるのだろうか。ろうそくに限らず、御香や線香、蚊遣りなど、火が付かなくては話にならない多くの素敵なものを、私たちはまだまだ持っている。そうした、ひそやかでほのかな火種をもたらす道具として、いかにもふさわしい製品を見つけた。手元から十分に離して着火できる長さ。はっきり見えるきれいな炎。分かりやすく安全で確実な操作性。決して大仰ではないけれど、しっかりとした作り。そして何よりもシンプルな形と美しいカラーリング。この明るく楽しいデザインは、人が楽しい時も悲しい時も、暮らしの中の小さな炎と親しんできた長い歴史を祝福しているように見える。

テールドック キャンドルライター
(株式会社グローバルプロダクトプランニング)

益田文和(ますだ・ふみかず)プロフィール

1949年

東京生まれ。

1973年

東京造形大学デザイン学科卒業

1982年〜88年

INDUSTRAL DESIGN 誌編集長を歴任

1989年

世界デザイン会議ICSID'89 NAGOYA実行委員

1994年

国際デザインフェア'94 NAGOYAプロデューサー

1995年

Tennen Design '95 Kyotoを主催

1991年

(株)オープンハウスを設立
現在代表取締役。近年は特にエコロジカルなデザインの研究と実践をテーマに活動している

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