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ユニバーサルデザイン 益田文和
Vol.028 骨伝導ステレオヘッドホン
 

耳は音と共に、気配を聞く器官だと思う。体が小さく力も弱い哺乳類の祖先が恐竜時代を生き抜けたのは、聴覚が発達したことで闇の中でも危険を察知できたからだという学説もあるくらいで、耳と気配は切っても切れない関係にあるようだ。
ヘッドホンを着けて音楽を聴いている若者が傍若無人に感じられるのは、彼らが周囲の気配から遮断されているからかもしれない。人の流れの真ん中でいきなり立ち止まって携帯電話で話し始める人も、耳をふさがれて周囲の気配が伝わらないので、自分の置かれている状況が分からなくなるのだろう。
耳をふさがずに、つまり周囲の気配を消さずに音楽や通信などの音を聞くことが出来るのが骨伝導方式のヘッドホンで、これを装着すれば、普通のヘッドホンやイヤホンが空気の波動を鼓膜から内耳の蝸牛に伝えて音として聞くのに対して、音源の振動を頭の骨から直接蝸牛に伝えることができる。つまり、鼓膜を介さないで音を聞くことになる。そうすれば、何か作業をしている時にも、周囲の音を聞きながら音楽や人の声を聞くことができるし、逆にひどい騒音の中や空気の波が伝わらない環境下での通信も可能である。
自衛隊や消防などの現場作業や水中作業に向いているほか、長時間使用しても鼓膜を疲労させないことからコールセンターのオペレータなどの業務用として使われている。
年をとると耳が悪くなる。視力障害に対してはメガネやコンタクトレンズなど手厚い手当てを用意している社会が、聴力の衰えに関しては意外なほど冷淡に思えるのはなぜだろう。話しかけても応えないとか、大きな音でテレビを観るとか、迷惑がるばかりであまり同情する様子もない。当人は不便な上に気配が伝わりにくいので疑心暗鬼になるばかりだ。
耳掛けのスプリングがちょっと骨のような形をしている以外、ごく普通に見えるこの骨伝導ヘッドホン「オーディオ ボーン」、実は加齢性の難聴を改善する効果もあるという。これがあれば耳が遠くなってもロックやジャズが楽しめるとは、何という朗報だろうか。

骨伝導ステレオヘッドホン「オーディオ ボーン」/ゴールデンダンス

益田文和(ますだ・ふみかず)プロフィール

1949年

東京生まれ。

1973年

東京造形大学デザイン学科卒業

1982年〜88年

INDUSTRAL DESIGN 誌編集長を歴任

1989年

世界デザイン会議ICSID'89 NAGOYA実行委員

1994年

国際デザインフェア'94 NAGOYAプロデューサー

1995年

Tennen Design '95 Kyotoを主催

1991年

(株)オープンハウスを設立
現在代表取締役。近年は特にエコロジカルなデザインの研究と実践をテーマに活動している

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