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ユニバーサルデザイン 益田文和
 

歳をとるに従って物覚えが悪くなるのは自然のことだから特に気にする事もないのだが、気がつけば身の回りのいろんなものにピンクやグリーンや蛍光色と、色とりどりの付箋がついて、そして付箋をつければ安心して忘れるものだから、忘れた印ばかりが増えてゆく。
あの粘着メモ用紙を付箋に使うようになったのはいつごろからだろう。貼ったりはがしたりしても糊や跡が残らず、最近では豊富な色数やサイズがそろっていて、オフィスや学校で使うには実に便利。しおりとしても使えて、文庫本など薄い本にはちょうど良いのだが、実際にやってみると、小説も詩集も、書類か参考書のように見えて味気ない。
買ったままになっていた本を初めて読もうと思って手にとったのに古い付箋がついていると、自分に裏切られたような気がするのも、それが事務用の粘着メモ用紙だからなのかもしれない。実際それは、目立つように、忘れないように、思い出させるようにデザインされている。
それに比べてこの花付箋は思いやりに満ちている。細い茎の先についた丸いプラスチックシートの両面に貼られた花びらは透き通る紙製で、うっすらときれいな色がついている。これを一枚ずつはがして付箋として貼るのだが、その、あくまでも控えめな小さな花びらが四角いノートや本に貼られると意外なほどの存在感がある。それは、自分から主張するのではなく自然に気づかせるような優しい存在感だ。読みかけの本の間からのぞいていれば気の利いたしおりだし、備忘録ならぬ備忘箋としてあちこちに貼っておいてもイライラしない。
ユニバーサルデザインといえるものは、使用機能が優れているのは無論のこと、この花付箋のように人の心に加わるストレスを和らげる心理的機能においても優れたデザインでなければならないのだろうと思う。
ピンク、ブルー、パープル、イエロー系の微妙に和風な4カラーバリエーションが用意されている。役目が済んだ花びらはまた元の花に戻してやれば再び使えるというのも素敵だ。

花付箋 発売元:アッシュコンセプト

益田文和(ますだ・ふみかず)プロフィール

1949年

東京生まれ。

1973年

東京造形大学デザイン学科卒業

1982年〜88年

INDUSTRAL DESIGN 誌編集長を歴任

1989年

世界デザイン会議ICSID'89 NAGOYA実行委員

1994年

国際デザインフェア'94 NAGOYAプロデューサー

1995年

Tennen Design '95 Kyotoを主催

1991年

(株)オープンハウスを設立
現在代表取締役。近年は特にエコロジカルなデザインの研究と実践をテーマに活動している

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