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ユニバーサルデザイン 益田文和
Vol.003 30グラム、30時間?技術からの挑戦
 

子供の頃、部屋の電気を消された後で布団にもぐりこみ、懐中電灯で漫画の続きを読んだ経験を持つ人は少なくないだろう。しかし、敷布団と掛け布団の間に作った窮屈な空間で懐中電灯の光を操るのは結構難しく、隙間をうまく枕でふさいでおかないと漏れた光が障子に映って母親に見つかる危険があった。そんなスリリングな、文字通り息の詰まるような思い出がよみがえる不思議な商品を見つけた。

首から提げるLEDの小さなライト。パッケージには「釣りやアウトドアに、手元の作業に、夜行バスの読書に」と用途が書いてある(それにしてもなぜ夜行列車や飛行機でなく夜行バスなのだろう?バスには読書灯がついてないのだろうか?)。

これ以外にもホテルや病院、夜のドライブ、深夜のデートや墓地での花見など、使い道を考えるだけでドキドキする。高輝度白色LEDのやや青っぽい冷たい光は夏向きだからスイカ割りや花火にも良さそうだ。盆踊りのとき、みんなで着けて踊ったら蛍が飛んでいるみたいできれいだろう。こんなに想像力を掻き立てられる製品も珍しい。

全体で約30グラムと驚くほど軽い上に、一体型のシリコン樹脂製ストラップは柔らかくしなやかなので、首から提げても違和感がない。LEDの光は指向性が強く広がらないので手元や足元の狙ったところを効果的に照らし、周りの人はまぶしくない。ボタン電池で連続30時間使え、フィラメントがないので球切れの心配もない、と良いこと尽くめの製品で思わず買いたくなるのだが、問題は実際、何に使うかだ。

人々と道具や施設の間に横たわる具体的な問題に対して、的確で気の利いた答えを示すのがユニバーサルデザインの基本だが、このネックライトのように、今まで世の中になかった道具が生まれるときは、人々の想像力に働きかけ何に役立つかを問いかけてくる場合がある。この機構と構造なら、ネックレスやスカーフなどに仕込むことも技術的には可能であり「さあ、どうしてくれますか?」と、これはデザイナーに対する挑戦でもある。

益田文和(ますだ・ふみかず)プロフィール

1949年

東京生まれ。

1973年

東京造形大学デザイン学科卒業

1982年〜88年

INDUSTRAL DESIGN 誌編集長を歴任

1989年

世界デザイン会議ICSID'89 NAGOYA実行委員

1994年

国際デザインフェア'94 NAGOYAプロデューサー

1995年

Tennen Design '95 Kyotoを主催

1991年

(株)オープンハウスを設立
現在代表取締役。近年は特にエコロジカルなデザインの研究と実践をテーマに活動している

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