ものにはそれぞれ名前があっても、その多くをわれわれは知らない。厚紙を二つに折った紙バサミのようなものに穴を開け、薄く細長い金属の板を曲げたようなものを通す。それを更に書類に開けた穴に通して折り曲げて留める。その薄い金属の板を「とじ足」と言い、曲げたとじ足を留める金具を「とじ具」と言うらしい。これらの名前が分からないと、この後の説明ができないのである。
さて、とじ具やとじ足の呼び名は知らなくても、そのおかげでできたファイルをフラットファイルと呼ぶ事は多くの人が知っている。そのフラットファイルのとじ足であるが、最近は金属製よりプラスチック製のものが主流である。金属のとじ足は、とじる紙のパンチ穴に通す時に、いちいち指で立てなければならなかったが、プラスチックのとじ足は弾性のあるポリプロピレンを使っているので、とじ具を外すと自然に立ち上がる。
しかし、いかにもプラスチックらしいあいまいな動作で何となく立ち上がっている2本のとめ足を紙に空けた穴に通すには、両手で紙を持ちながらとめ足を動かしてパンチ穴の位置に誘導するという微妙な指先の作業を必要とする。多くの人はこんな事を無意識にやっているから、慣れれば特に不便だとも思わないが、指先を怪我していたり、片手で作業しなければならなかったりするとずいぶんイライラする。特に束ねている紙に空いたパンチ穴の位置がずれている場合など、絶望的な気分になる。
ところが、このクイックインというファイルは、何とスプリング製のとじ足を持っているので、とじ具を外した途端にとじ足は何のためらいもなく見事に直立する。しかもそのまましっかりと立っているから、一枚ずつだろうと束ねてだろうと、片手でもらくらくとパンチ穴を通すことができる。扱いやすく工夫されたとじ具をスライドさせて外すやいなや、ピンッと直立するとじ足を見ると、誰もが「アッ」と一瞬で納得する、小気味良いデザインである。
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