昭和40年頃までは家中で出かけることは稀で、誰か留守番がいたこともあって、都会でも夜寝るまで玄関の鍵は掛かっていなかったような記憶がある。家に戻ると何のためらいもなく玄関の戸を開けて、大声で「ただいまっ」と言うクセがついているので、たまに鍵が掛かっていて扉が開かないと不意をくらって驚くのである。しかし、そんな時でも鍵は牛乳箱の中にあるか隣の家で預かってくれていたもので、自分で持ち歩く必要はなかった。「鍵っ子」という言葉が珍しかった頃の話である。
それが、いつの間にか家族の数だけ合鍵を作って皆が持ち歩くようになると、子供だけでなく、おじいさんもおばあさんもみんな鍵っ子になってしまった。現代の老若男女全ての鍵っ子にとってとても大切な鍵を、忘れず落とさず失くさずに持ち歩くために、いろいろな工夫が施されたキーホルダーやキーケースが売られている。
その中でもユニークなデザインのウールのキーケース、というよりキーカバー。小さくて軽くて柔らかい。ふっくらとしたフェルトの袋の中に鍵がすっぽり納まるのでポケットやバッグの中でジャラジャラ音を立てず、手触りが優しくてまわりのものを傷つけない。
使い方も実に簡単で、ジッパーや留め金を開閉する必要もない。コードの下端の金具を下に引き出せば鍵の束がすっかり出てくるので、鍵の見分けがつきやすく、施錠、開錠の動作がしやすい。使い終わったらコードの上端の金具を引き上げるだけでいっぺんにすっきり収納される。まさにワンタッチ。
使いやすさに加えて、このキーケースがユニバーサルデザインであるもう一つの理由は、それが男女の別なく、子供からお年寄りまで誰が持っても似合う点にある。ほっくりと温かいフェルトの風合いにアルミのテクスチャーが良く映えて、若々しいのに落ち着いた、ちょっとおしゃれな配色は、鍵っ子の悲哀を忘れさせてくれる。
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