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ユニバーサルデザイン 益田文和
ペンダコ自慢ができないペン
 

そういえば、最近ペンダコに出会った覚えがない。ペンダコという言葉は聞いたことがあっても、実物を見たことがない若者も多いのだろう。利き手の中指の第一関節の内側に固く盛り上がったペンダコは、よく勉強したり、熱心に仕事をしたり、まめに手紙を書いたりしている証拠だったのに、いつの間に消えてしまったのだろうか。
この10年のワープロの普及で、手書きの機会がすっかり少なくなってしまった。ペンダコの衰退とともに筆記具も同じ運命をたどるかと思いきや、むしろ最近の活発な新商品開発の勢いは目を見張るものがある。しかし、いかに改良を重ねても、ボールペンはボールペンで、その機能は50年間基本的には変わっていない。
ボールペンは構造上、紙に対して直角に近く立てたまま、筆圧をかけ続けながら動かすことで、一定の濃さと太さの線を描くように作られている。筆圧をかければ指は滑る。滑りを止めるため握った指に力が入る。こうして、筆圧とそれに負けない握る力を必要とするボールペンは、筆跡のコントロールが難しく、長時間使うとくたびれる。
いかに少ない力で安定して握ることができるか、という課題に対してエルゴノミクス(人間工学)の観点から徹底的に検討を加えてデザインされたこのペン軸を使えば、ボールペンをよく使う人はもちろん、特に指の力が弱い人や握る力を持続できない人でも、余分な力を必要とせず、安定した筆圧で書き続けることができる。その原理は、指とペン軸がなるべく広い面積で触れ合うようにするというシンプルなもので、結果として生まれた立体的な形態は、指を最適な位置へと自然に導く働きをしている。
このペンを使ったのでは、どんなに勉強してもペンダコはできそうにないから、ペンダコ自慢はできないが、有機的な造形を生かしたキャンディのようなデザインにまつわるうんちく話のほうは、ちょっとした自慢の種になる。

ニュースパイラル/ゼブラボールペン、シャープペン(共に黒、ライトブルー、ライトグリーン、オレンジ、ピンク)

益田文和(ますだ・ふみかず)プロフィール

1949年

東京生まれ。

1973年

東京造形大学デザイン学科卒業

1982年〜88年

INDUSTRAL DESIGN 誌編集長を歴任

1989年

世界デザイン会議ICSID'89 NAGOYA実行委員

1991年

(株)オープンハウスを設立

1994年

国際デザインフェア'94 NAGOYAプロデューサー

1995年

Tennen Design '95 Kyotoを主催

現在

(株)オープンハウス代表取締役。近年は特にエコロジカルなデザインの研究と実践をテーマに活動している。

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