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ユニバーサルデザイン 益田文和
Vol.004 やさしい木の取っ手
 

日本茶は湯を冷まして淹れるから日本のカップ(湯飲み)には取っ手がない。一方、熱湯を使う紅茶やコーヒーのカップに取っ手がなかったら熱くて持つことができない。
これは、文化的背景からくる機能性が道具の形に表れる好例として、欧米のデザインのテキストでよく紹介される。実際、熱すぎる日本茶を並々と注いだ湯飲みは、火傷しそうで持てない。
熱いロシア風紅茶やハーブティをグラスで出すのは、ジャムや葉っぱや花びらなどの色や形を楽しむためだろうか。冬の晩にはお湯割のウィスキーもいい。そんな熱い飲み物をグラスで飲むために、レストランなどでは昔から取っ手がついた金属製の袴のようなものを使うが、あれはなんという名前だろう。

取っ手のないカップやグラスは洗いやすくスタッキングできるなど、扱いが楽で収納にも便利な反面、持つときに滑りやすいので、中身が熱くなくとも取り落としかねない。実際、握力が弱い子供や指が思うように動かない高齢者が大ぶりのグラスを扱うのを見ているとハラハラする。氷の入った冷たい飲み物の場合も、手が冷えるばかりでなくグラス表面が結露して濡れるので、立食パーティなどではペーパーナプキンなどを巻くが、格好の良いものではない。

そこで、お勧めなのがこのカップホルダー。薄い天然木の突き板を積層する曲げ木の技術が生きた、シンプルなデザインだ。木の反発力を利用したばねが利いているので、大き目のグラスなら多少太さが違ってもしっかりホールドしてくれる。長めのハンドルは握ってつかめるので安定感があり、グラスの上げ下ろしや飲むために傾けた時もバランスを取りやすい。
そして、何よりも美しい。樺の木を白木のまま使った、いかにもフィンランドらしいデザインで、こんなに小さい道具にも北欧家具の趣があり、持つ手に自然の温もりと優しさが伝わってくる。
子供や老人ばかりでなくみんなのグラスにつけて並べれば、テーブルの上が白樺林になる。

「Majamoo 白樺カップホルダー」
ヘルシンキ2000 デザインコンペティション入賞作品

益田文和(ますだ・ふみかず)プロフィール

1949年

東京生まれ。

1973年

東京造形大学デザイン学科卒業

1982年〜88年

INDUSTRAL DESIGN 誌編集長を歴任

1989年

世界デザイン会議ICSID'89 NAGOYA実行委員

1994年

国際デザインフェア'94 NAGOYAプロデューサー

1995年

Tennen Design '95 Kyotoを主催

1991年

(株)オープンハウスを設立
現在代表取締役。近年は特にエコロジカルなデザインの研究と実践をテーマに活動している

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