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ユニバーサルデザイン 益田文和
ドイツ流モダンデザインの拡大鏡
 

のっけから堅い話で恐縮だが、ユニバーサルデザイン(UD)の考え方は比較的最近になってアメリカで生まれたもので、もともとは身体障がい者が社会的に不利益を被らないよう、あるいは差別を受けないように、という人権問題としての性格を強く持っている。
一方、ここ10年ばかりの間に日本で独自に発展してきたUDはアメリカ以外にもいくつかのルーツを持っている。一つはイギリスや北欧の社会福祉政策から来る流れで、お年寄りを始めさまざまな障がいを持った人や子供たちをサポートする生活環境やサービスを社会制度として整えようというもの。
もう一つは第二次世界大戦を契機として欧米で生れた人間工学の流れで、人体の寸法関係や運動機能に関するデータを、機器の設計上重要な要件として取り入れようというもの。
そして最後に、これは日本のものづくりの特性ともいえるきめ細かな便利さを追求する商品開発の伝統がある。カメラのオートフォーカスなどが良い例で、視力が弱いために良い写真が撮れないとあきらめていた人たちにとっても、それは画期的な技術だった。こうした、健常者と障がい者が一緒に使えるものを共用品と呼ぶが、その言葉と概念はUDより古く日本で生まれたものだ。
最近ヨーロッパ、特にドイツで日本流のUDに対する関心が高まっている。20世紀の工業デザインをけん引してきたドイツ流モダンデザインの特徴は、ひとことで言ってシンプルであること。このポケットタイプの拡大鏡などもその典型で、名刺よりやや小さい厚さ6ミリのカードのような本体から引き出される四角くいアクリル樹脂のフレネルレンズ(平面レンズ)は十分な広さを持っていて、自動的に点灯するLEDが対象物をくっきりと浮き上がらせる。
このように、機能も形も細部にわたって十分検討され、徹底的に整理した結果でき上がるシンプルな造形と、日本流ユニバーサルデザインのきめ細かな配慮が合わさるとどのようなことになるのか、今から楽しみだ。

"EASY pocket"/ESCHENBACH(エッシェンバッハ)/ドイツ

益田文和(ますだ・ふみかず)プロフィール

1949年

東京生まれ。

1973年

東京造形大学デザイン学科卒業

1982年〜88年

INDUSTRAL DESIGN 誌編集長を歴任

1989年

世界デザイン会議ICSID'89 NAGOYA実行委員

1991年

(株)オープンハウスを設立

1994年

国際デザインフェア'94 NAGOYAプロデューサー

1995年

Tennen Design '95 Kyotoを主催

現在

(株)オープンハウス代表取締役。近年は特にエコロジカルなデザインの研究と実践をテーマに活動している。

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