季節が変わると花屋さんの店先も様変わりする。ふと、花でも買ってゆこうかと思う。初めて訪れるお宅とか、久しぶりに会いに行く知人、それも見舞いに行く場合など先方の様子が分からない時、花は格好の手土産である。もちろん人にはそれぞれ趣味があるから、小さい花が好きだとか、薔薇は黄色に限るとか、言い出したらきりがない。しかし、時候の挨拶にと携える切り花を不愉快に思う人はまずいない。香りのきついもの、やけにかさばる花束など、非常識な例外を除けば、先様のご迷惑になることはまずないだろう。
さて、そこまではその通りなのだが、問題はその先、花瓶である。心のこもった花を受けとった側が一番困るのはそこなのだ。花を生けようと振り返っては見るものの、独り暮らしの殺風景な部屋にもとよりそれらしいものがある訳もない。グラスはあるが、それを使ってしまっては、この客人にビールを出せなくなる。洗面所のカップを使う手もあるが、そうするとこの先、歯を磨く間、片手に花を持っていなければならなくなる。普段、花をもらう事などない人とはそういうものだと思っていた方が良い。
だから、この花瓶をバッグやポケットに忍ばせてゆく。部屋の様子を一瞥すれば、花瓶があるかないかの見当はつくし、相手の表情で察しはつくから、はいこれも、とさりげなくお渡しする。床に伏している相手なら水場を借りて手早く挿して上げる。せっかくの好意でかえって相手を戸惑わせるような事がないように、という決め手がこのぺらぺらの花瓶なのである。
厚さ0.4ミリ、大判の絵はがき程度の大きさのプラスチックフィルム。ポリエステル、ナイロンなどの積層構造で、水を入れると膨らんで自然に花瓶の形になる。使い終わったら水を切って乾かしておけば、繰り返し使える。透明で存在感が希薄なのも花を引き立てる効果があって良い。買い置きしておけば不意の来客にあわてることもなく、逆に花を飾ってお迎えすることだってできる。薄く軽く割れないといった物理的な利点ばかりでなく、中途半端な思いやりで終わらせない、心のユニバーサルデザインなのである。 |