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ユニバーサルデザイン 益田文和
Vol.005 手のひらのような小銭入れ
 

券売機で切符を買おうとする。
ズボンのポケットに直接小銭を入れている場合は、利き手を突っ込んで掴み取った小銭を握ったまま、親指と人差し指の指先で百円玉と十円玉をより分けて、盤面に開けられた細長い穴に一枚ずつ入れてゆく。歳のせいか、この作業が最近やたらにやりにくい。特に一円玉が十円玉の縁にはまったら離れないようにできているから、指先が相当に器用でもクリアするのは難しい。新型の券売機では硬貨の投入口が斜めの面についていたり、まとめて投げ込んでやると機械が必要な硬貨だけより分けてあとは戻してくれたりと改良されてきているものの、スーパーのレジなどでは、店員の手にジャラッと渡して数えてもらうわけにもゆかない。いっそ、慣れない国に旅行したときにやるように、手のひらに小銭を載せたまま見せて必要な分だけ取ってもらおうかとも思うけど、多く取られたとき文句を言っとたんに外国からの旅行者でないことがばれるから、考えるだけでまだやったことがない。もう一方の手にいったん持ち替えて両手を使ってより分ければよさそうなものだが、そちらの手は大体において荷物を持っているので期待されるほど自由にならず、かえってコインをばら撒いたりする。

だから、小銭入れを持てばよいのだけれど、開閉に手間がかかったり、のぞいても中が良く見えなかったり、必要な硬貨を選り出しにくかったりして、なかなか良いデザインのものがない。イタリアperoniのコインケースはフィレンツェ郊外、サンタクローチェの革職人が若い雄牛の革ひとつ一つ槌でたたいて仕上げる名品。オリジナルは日本人にはやや大きすぎたらしく、しばらく見かけなかったが一回り小ぶりになって再登場した。つるつるとしたふくらみのある蓋を手のひらでくるむように持ってベロを持ち上げると、コインが蓋の内側に自然に出てくる。ああ、道具とはこのように美しく役立つものでありたい。

益田文和(ますだ・ふみかず)プロフィール

1949年

東京生まれ。

1973年

東京造形大学デザイン学科卒業

1982年〜88年

INDUSTRAL DESIGN 誌編集長を歴任

1989年

世界デザイン会議ICSID'89 NAGOYA実行委員

1994年

国際デザインフェア'94 NAGOYAプロデューサー

1995年

Tennen Design '95 Kyotoを主催

1991年

(株)オープンハウスを設立
現在代表取締役。近年は特にエコロジカルなデザインの研究と実践をテーマに活動している

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