以前、精神科の医師を取材したことがあるが、その先生、左右全く違う色と柄の靴下を履いて、真面目な顔をして診察室の椅子に腰かけていたので、どうしたものかと戸惑ったことを思い出す。冗談か、何かの実験かと思ったのだが、お話の内容も凡人には理解し難く、不揃いの靴下の理由は、怖くて聞けずじまいだった。
身に着けるものでまったく同じものをペアで使うことになっているのは靴下ぐらいだろう。手袋は左右の形が違うが、靴下は特殊なものを除いて左右の違いもない。であるから、同じものばかりを何足も買っておけば、どれを履いても同じことだから世話がない。とは言え、ユニホームでもない限り、選ぶとなれば色や柄の違うものをいろいろと揃えたくなるのが人情だ。
そうなると片方に穴が開いたため残って履けないものが出てくる。あるいは、よく似た色柄の区別がつかずに左右不揃いのものを履いてしまったりする。右と左とまったく違う靴下を履くのがおしゃれだと思う若者や、先の先生のような特殊な例は別として、うっかり間違えた場合は出先で気付いてからは終日気になって仕方がない。
そうでなくても靴下は、洗濯の時にどうしてだか離ればなれになりがちだ。洗濯して干しあがったものを、履くときに間違えないよう一足ずつ揃えておくのに、畳み方を工夫したり、結んでしまったりと、世の人々は様々な試行錯誤をしているようだ。しかし、そうした工夫も色や柄が区別できればこそで、視覚に障がいを持っていると、左右同じものを揃えるのは困難を極めることだろう。
このソックス・ウォッシュ・クリップは、靴下を洗う時に使うクリップである。履いていた靴下を脱ぐときに、左右揃えてこのクリップに留める。そのまま洗濯してそのまま干して、乾いたらそのまましまっておけば、次に履くときに迷わずに済む。軟らかいプラスチック製で、靴下を挟むのは楽だが、特殊な形状の溝のために外れにくい。一度カップルにしたら二度と離さないという、実にシンプルだが理にかなったソリューションだ。
クリップにタグでもつけて、どれがどれだか区別がつくようにしたら更に便利だろう。点字の説明書が付いている心づかいが良い。
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