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ユニバーサルデザイン 益田文和
Vol.006 首振りヘッドの爪切り
 

最近足の骨を折る機会があって、体の一部が不自由だということが実際どういうことなのか、まさに身をもって体験することができた。
足先の骨を一本折ったというだけでどれだけ行動が制限されるものか、元気な時には想像できない。例えばテーピングした足で履ける靴がない。街中バリアだらけで車椅子は使い物にならない。気の利いた杖一本見つからない。それこそ都市環境から靴のひもまで、けがをしたり病気をしたり、年を取ったり幼かったり、妊娠していたり荷物を持っていたり、あるいは何かしらの障害を持っていたりという、人間の多様性を想定せずにデザインされている事がよく分かった。
けがをした足の爪を切りたいと思っただけでも思案に暮れる。それでなくても体が硬くておなか周りの貧弱でない人にとって、自分で自分の足の爪を切るというのは骨の折れる仕事であるのに、文字通り骨が折れていていつものように足を動かせないとなると、これはもう、如何ともしがたい。

そんな経験をした後で見つけたこの爪切りは、よく考えて作られている。長い柄の先についたヘッド部分が自在に動き、苦しい思いをして手を伸ばしたり、足を無理やり引き寄せたりしなくても、爪切りのほうで刃の向きを合わせることができる。長い柄がテコになって軽い力で切れるのは言うまでもない。そして、もちろんけがが治っても使いやすいことに変わりはない。
ついでに、足の爪専用のヤスリも見つけた。長さが16 cm程あって足先に届きやすいばかりでなく、一端が丸くくぼんでいるので爪のカーブに沿って磨いたり、巻き爪を削ったりするのに向いている。ヤスリの目も細かくてきれいに仕上がる。
こうした、痒いところに手が届く、というか足の爪に手が届くような配慮こそ日本のものづくりの特長であってほしい。

コフのツメキリ:小坂刃物製作所(2,625円)
足の爪ヤスリ:グリーンベル(525円)
(どちらも銀座松屋7階ユニバーサルスクエア)

益田文和(ますだ・ふみかず)プロフィール

1949年

東京生まれ。

1973年

東京造形大学デザイン学科卒業

1982年〜88年

INDUSTRAL DESIGN 誌編集長を歴任

1989年

世界デザイン会議ICSID'89 NAGOYA実行委員

1994年

国際デザインフェア'94 NAGOYAプロデューサー

1995年

Tennen Design '95 Kyotoを主催

1991年

(株)オープンハウスを設立
現在代表取締役。近年は特にエコロジカルなデザインの研究と実践をテーマに活動している

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