箒(ほうき)を使ったことがない人でも、手に持てば何をする道具で、どう使えばよいかが説明されなくても分かる。使い手に直感的に使い方を理解させ、想定された行為へと無理なく誘導するデザインの機能をアフォーダンスというが、箒などはまさにそのお手本だ。
長い年月の間に決まってきた、無駄を排したスリムでシンプルな造形は世界共通だが、特に日本の畳の床を掃くために洗練を重ねてきた形は美しい。穂の部分は掃く個所に合わせてしなやかに形を変え、穂先はどんな隙間にも入り込む。腰が強く適度な弾力がある材料の箒草は、力を入れなくてもほこりをはじき出す。
誰にでも簡単に安全に静かに使えて役に立つ、優れたユニバーサルデザインである箒だが、住環境の変化とともに相性の良い畳そのものが少なくなり、閉ざされた空間でカーペットやフローリングの床を掃除するには電気掃除機のほうが効率が良いということなのだろう、今やすっかり主役の座を降りた形だ。
大正から昭和初期にかけて箒作りで栄えた神奈川県愛甲郡愛川町中津の団体「市民蔵常右衛門」は、かつての箒作りを復活させるために、過去の箒作りの技術を研究し、原料の箒草(箒モロコシ)を無農薬栽培するところから始める本格的な箒作りに取り組んでいる。
この新しい中津箒はオリジナルの技術を継承しながら、現代の生活にあった新たな用途に対応するユニークなデザインを生み出しているのが特長だ。座敷箒も風格があってすてきだが、特に小箒は可愛らしいばかりでなく、さまざまな用途に使えて便利だ。テーブルのパンくずを払ったり、パソコンのキーボードの溝を掃除したり、携帯のストラップにするほど小さいものまであって、どれも皆、魅力的だ。さっさっという音と感触になぜか癒される。 |