
ユニバーサルデザインは、人によって身体や頭脳の特質はさまざまに異なるものだから、始めからそれらの違いを考慮して、できるだけ多くの人に不自由なく使ってもらえるような製品や施設やサービスをデザインしようという考え方である。それは、言い換えれば可能な限り汎用性の高いデザインということになる。
一方、汎用性を狙うのではなく、むしろ個別の特殊な問題を解決するために考案されたデザインが、結果的に普遍的な価値を持つということもある。高齢化とともにピントを合わせにくくなるカメラマニアを補助するのが目的だったオートフォーカスが、今やカメラの基本機能となり、それまでカメラを持たなかった人にまでユーザ層を大幅に広げることになったのもその例である。
さて、この軟らかくて弾力のあるシリコン樹脂製の小さな玉のようなものは、iPhoneという一商品の機能的弱点を補うために考案されたものである。タッチパネルを操作したりネット配信される動画を観賞したりするために、画面に一定の角度をつけて保持するパーツとして売り出された、その名もiStandという。
ところが、これは相手がつるつるした表面ならどこにでも吸盤でくっつくので、他にもいろいろな使い方ができる。携帯電話などのソーラーパネルの角度を太陽に向けて調節したり、ワンセグのテレビを観るときのスタンド代わりにしたりするのに便利なほかに、薄くてつかみどころのない定規のようなものや、開けにくいガラスの引き戸などにあらかじめ付けておけば、持ち上げたり動かしたりするのに重宝する。更に、これはメーカーの想定した用途ではないのでお勧めはできないが、グラスのような曲面にも意外にしっかり付くので、少し改良すれば握力の弱い人の補助具としても使えそうな気がする。
こんな小さくてシンプルな道具というかパーツのような応用範囲の広いものが、ユニバーサルデザインの原点に近いのかもしれない。
iStand/イデアインターナショナル(ホワイト、ブラック、オレンジ、ピンク、ブルー、グリーン、パープル)



- 1949年
- 東京生まれ。
- 1973年
- 東京造形大学デザイン学科卒業
- 1982年〜88年
- INDUSTRAL DESIGN 誌編集長を歴任
- 1989年
- 世界デザイン会議ICSID'89 NAGOYA実行委員
- 1991年
- (株)オープンハウスを設立
- 1994年
- 国際デザインフェア'94 NAGOYAプロデューサー
- 1995年
- Tennen Design '95 Kyotoを主催
- 現在
- (株)オープンハウス代表取締役。近年は特にエコロジカルなデザインの研究と実践をテーマに活動している。