自分が日本人であることを思い知らされるのは正座をしなければならない時である。法事の席などで久しぶりにひざを正そうとして、愕然とすることがある。踵に尻がつくまでひざが曲がらない。無理に曲げれば痛い上に、今度は容易なことでは立ち上がれない。こんなはずではなかった。いつの間にこんなに硬い体になってしまったのかと驚く。
しかし、そもそも日本人以外の人々にとって正座は苦痛なものなのだから、今更座れないからといって嘆くことはないのかもしれない。文化的慣習というものは時として理不尽なものである。ユニバーサルデザイン的に筋を通そうと考えれば、正座などやめて畳に椅子を置いて座るようにすべきなのかもしれない。しかし、それでは、アラブの女性が暑いのに黒いベールを被っていたり、イギリス人がグリーンピースをフォークの背中に載せて口まで運んだりすることも止めなければならないということになる。
どのような風習も例外が認められ、特例があるから続けられる。いや、むしろ正座や黒いベールやフォークのグリーンピースの方が異例なのだから、それに対応できない場合の救済策は用意されてしかるべきなのだ。そしてそれこそが本当の意味でのユニバーサルデザインなのではないだろうか。
ということで、正座を陰ながらサポートする小椅子はさまざまな種類が出回っている。ひざの曲がりが悪い人には高さのあるもの、足を揃えたい人には支柱が狭いもの、カラフルなクッションがついたものなど、いろいろある中で、この桐製のシンプルな正座椅子は高さが10cmで、正座時の踵の高さとほぼ同じ。姿勢を変えずに足に掛かる体重を支えてくれる。畳むと12×22×4cmで230gしかない。軽々と手のひらに乗るコンパクトさである。組み立てる動作も無駄がなく、和室に溶け込んで目立たない姿もいい。柔らかい桐材は畳や床を傷つける心配も無い。このさりげなさが良い道具の身上だ。さすが両国の桐箪笥職人は仕事が粋である。
桐屋田中 総桐製正座椅子
- 1949年
- 東京生まれ。
- 1973年
- 東京造形大学デザイン学科卒業
- 1982年〜88年
- INDUSTRAL DESIGN 誌編集長を歴任
- 1989年
- 世界デザイン会議ICSID'89 NAGOYA実行委員
- 1991年
- (株)オープンハウスを設立
- 1994年
- 国際デザインフェア'94 NAGOYAプロデューサー
- 1995年
- Tennen Design '95 Kyotoを主催
- 現在
- (株)オープンハウス代表取締役。近年は特にエコロジカルなデザインの研究と実践をテーマに活動している。