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ユニバーサルデザイン 益田文和
Vol.008 使いやすさがかたちになったティーポット
 

お茶というのは面白いもので、世界中に様々な飲み方があり、それぞれ独自の作法があり、道具がある。中国茶では可愛いらしい素焼きの茶壷を片手に持って、小さな茶杯に手際よく注ぎ分けてくれるが、イギリスの紅茶や日本の煎茶を淹れる動作はゆったりとしている。ポットや急須は両手で扱うことになっているようで、不精して片手で使うと失敗するということは、誰でも大概い、経験的に知っている。

作法やルールというものはもともと何らかの合理的な訳があって決まるのだろうが、いったん出来上がってしまうと、それらを知らない人や、知っていてもその通りにしない人や、したくてもできない人に対して排他的な決まり事になる。その場合、道具もその決まり事に則って作られることが多いので、従わないと不便なようにできている。
左手で鋏は使いにくく、汁椀を持たずに味噌汁を飲むのは難しい。しかし、左利きの人や片手の自由が利かない人はいくらでもいるし、右利きの人が手に怪我でもすれば誰でもたちまち他人事でなくなる。

そんな時、両手が使えなければお茶を淹れるのも一苦労だとすれば、ばかばかしい。じゃ何とかしましょう、というわけでこのポット、取っ手を持つのと蓋を押さえるのが片手でできる。更には、片手で注ぐための工夫が、外した蓋をポットの縁に掛けておくための仕掛けも兼ねている。さりげなく、押し付けがましくなく、スマートに問題を解決したかたちが、このポットの特徴になっていて、それがまた美しい。
有田という、ある意味で最も保守的な陶芸の産地にあって、一貫してモダンデザインを生み出してきた白山陶器にとって、使いやすくて美しい事などは、言わずもがなの前提条件なのだろう。ところが、実際にはそう簡単にはいかない事は、いわゆるユニバーサルデザインものの多くが実証している。
作法は作法、しかしやむなくルールを外れる時は、これ位、さらりとかわしたいものである。これなら、例えば相手の肩に手を置いたままお茶を淹れることだってできる。

白山陶器 ポット「シングルス」:白、グレー、ベージュのほか、つやのある白をベースに蓋の押さえ部分と土台に色が付いた麻の糸シリーズ(インディゴ、セピア)がある。2,940円。

益田文和(ますだ・ふみかず)プロフィール

1949年

東京生まれ。

1973年

東京造形大学デザイン学科卒業

1982年〜88年

INDUSTRAL DESIGN 誌編集長を歴任

1989年

世界デザイン会議ICSID'89 NAGOYA実行委員

1994年

国際デザインフェア'94 NAGOYAプロデューサー

1995年

Tennen Design '95 Kyotoを主催

1991年

(株)オープンハウスを設立
現在代表取締役。近年は特にエコロジカルなデザインの研究と実践をテーマに活動している

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