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世界IT事情

第10回 ブルガリア、ヴェリコタルノヴォ発 「IT化なれど、最後は人情が解決」

道具は同じでも、使う人が違えば、その反応も違うもの。「世界IT事情」では、世界各国のお国柄をご紹介しつつ、人々のITとの関わり方を、生活者の視点でご紹介していきます。 今月は、「ヨーグルト」で馴染みの深いブルガリアからお届けします。

「IT化なれど、最後は人情が解決」
「国外」は日本人の「県外」の感覚?

「ブルガリアと言えばヨーグルト」。外国のイメージは、実際と違うことも多いが、この件については間違っていない。ブルガリアではヨーグルトの種類も多く、その食べ方の多様さは日本とはまるで比較にならない。

国境

バスの車窓から見たトルコからブルガリアへの国境。「国境」という言葉に日本人が持つ緊張感はここにはあまりない。

そのブルガリアはバルカン半島の南に位置し、ギリシャ、トルコ、セルビア、マケドニア、ルーマニアと国境を接している。社会主義の時代が東欧革命で幕を閉じて20年近くが経とうとしている現在、日本では、民主主義になって人々は自由になったというのが、一般的な受け止め方ではないだろうか。しかし一概にそうとは言えないのが現状で、社会主義時代を懐かしみ、あの頃に戻りたいというブルガリア人は決して少なくない。現在のブルガリアの経済状態も決して良い状態とは言えず、就職難から家族の誰かがヨーロッパ諸国やアメリカなど、ブルガリア国外で働いているというのも珍しくない。国外の大学へ留学して学位を取り、そのまま国外で就職する若者も多いようだ。
そのせいかブルガリア人が国外に出ようとか、旅行に行こうとかいう時、その感覚は日本人とは違う。ヨーロッパ諸国とは地続きであるし、先に述べたように家族の誰かが住んでいることが多いので、外国はとても身近な存在になっている。更にバルカン半島には二重国籍の人が非常に多く、国境を越えての往来は盛んだ。交通手段は飛行機だけではなく、国際バス、鉄道が数え切れない程に発着している。

 

最後はいつも「アナログ」で

そこで役に立つのが「posoka.com」(ポソカドットコム)というインターネットサイトだ。「ポソカ」というのはブルガリア語で「道程」を意味する。ネットでの取引をメインとした旅行会社のホームページなのだが、ブルガリアでは、「旅行」と言ったらまずここにアクセスするというくらい、非常に親しまれているサイトである。日本では、外出の時には、インターネットでルートを検索するのが習慣になっている人も多いだろう。その旅行版と思えば良いかもしれない。
ここでは国際便の飛行機、国際バスの予約やチケット購入、国内外のホテルやツアーの検索と申し込み、それにバカンスの情報なども手に入れることができる。ポソカで航空路線を検索すると、航空会社、便名、フライトスケジュール、価格の詳細が航空会社ごとに表示され、比較も簡単だ。ところが、このサイトを使う時は、検索のみに終始し、実際にポソカで申し込むことは少ない。というのも、ポソカで買うと安価ということはなく、元社会主義国の名残りなのか、どこの旅行会社でチケットを買っても基本的に価格は同じなのだ。国際バスに関しても同じで、ポソカで検索した後に自分の町にある旅行会社にチケットを買いに行くというのが、多くの人の利用方法。それが一番効率的なのだ。ポソカの心が広いと言うべきか、それとも商売下手と言うべきか、実に良くできた検索サイトなので利用者は多いが、それが自社の利益に還元されることは少ないのではないか、とちょっと心配になってしまう。そんなところにまだまだビジネス慣れしていないブルガリアの姿が垣間見える。

駅

駅とは思えないほど何もなく静かなところ。線路を渡ってプラットホームへ。こののどかさと融通の利く対応は表裏一体。

面白いのは鉄道の国際路線で、これはポソカどころか、駅でも切符が買えないことがある。国際路線が停車する駅でも買えないのだから驚くが、ブルガリアには伝統的に「リラ・ビューロー」という国鉄のオフィスがあって、国際切符はここ以外では扱えないためだ。
以前、急に日本へ一時帰国しなければならないことがあった。私は急いでポソカで航空路線を検索し、閉店間際の旅行会社に駆け込んだ。飛行機の座席は確保できたものの運悪く金曜日の閉店間際だったためチケットの発券ができないという。首都ソフィアのオフィスでチケットの発券はできるが、私の住んでいたヴェリコタルノヴォのオフィスもソフィアの方も土日休業だというのだ。飛行機は日曜日なので、さてどうしようかという時、意外な解決法に恵まれた。なんと、土曜の朝7時にソフィアを出て10時にヴェリコタルノヴォに着くことになっている長距離バスの運転手が、ソフィアのオフィスでチケットを受け取って、翌日土曜に「ついでに」持ってきてくれることになったのだ。旅行会社の人が、時刻表をポソカで調べて、ちょうどよい時間に到着する長距離バスの運行会社に頼んでくれたのだ。私はその運転手から無事にチケットを受け取り、日曜日の飛行機で日本へ戻ることができた。決まり事に縛られない粋なはからい、そして最後は人の手でというブルガリア人の情に本当に感謝した出来事だった。

特派員プロフィール

早坂由美子(はやさか・ゆみこ)
2004年〜06年の2年間、ブルガリアのヴェリコタルノヴォに留学。専門は南バルカン半島の都市・建築史の研究。ブルガリア語も習得し、バルカン・スラヴ文化に没頭する日々を送っている。

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