ナビゲーションを読み飛ばすにはここでエンターキーを押してください。
一覧に戻る
COMZINE BACK NUMBER

世界IT事情

第11回 オランダ、アムステルダム発 「IT競り市で生花産業は花盛り」

道具は同じでも、使う人が違えば、その反応も違うもの。「世界IT事情」では、世界各国のお国柄をご紹介しつつ、人々のITとの関わり方を、生活者の視点でご紹介していきます。 今月は、チューリップと風車の国、オランダからお届けします。

「IT競り市で生花産業は花盛り」
世界に先駆けた生花システム管理法

オランダという国名を聞いて、万人が想像するのは「風車とチューリップ」ではないだろうか。国花でもあるチューリップは、原産地こそトルコだが、「ヨーロッパの庭」なる美しい異名をオランダにもたらした存在だ。

出荷を待つチューリップ

荷分けされ、出荷を待つチューリップ。品種改良により豊富な品種が楽しめるようになった。およそ30色のチューリップが現在知られているが、今後の課題は、青いチューリップの制作だとか。

オランダの街を歩くとまず気が付くのは、どこへ行っても花が手軽に買えること。専門店に始まり、小さな食料品店や移動店舗、ガソリンスタンドに至るまで、楽しく迷いながら気軽に購入できる。これら花の存在は、オランダ人のホームパーティ好きと関係があるかもしれない。特に理由などなくとも、自宅に親戚や友人を毎日招待しあい、コーヒー片手に談笑するのは、代表的なオランダ文化の一つ。そしてその場に欠かせないのが、花だ。相手の家を訪れる際、手土産として花束を持参するのだ。
そしてよく知られるようにオランダでは、花の生産高も世界第1位。2003年後半からの不況が未だ長引き、暗い経済ニュースを耳にする中で、以前と変わらぬ隆盛を誇るのが、生花生産・輸出業なのだ。チューリップ生産を中心としたこの産業、それこそ常に花盛りといった状態で、オランダはこの業界トップの座を、過去10年以上にわたって守り続けている。生花業界では、この座を譲る日は永遠に訪れない、とも言われているが、チューリップの生産高を着実に上昇させてきた裏方には、実はITが控えている。
というのも、園芸がオランダの主要な産業であることから、農林省は園芸農家協同組合へ資金を調達し、生花の完璧な生育・販売・流通システムがすべてスムーズに運営されるように、各方面でのITシステムを完璧に整えたのだ。具体的な例を挙げれば、1970年代には既に、政府の後押しにより、世界初のコンピュータ制御による温室内での蘭の育成・環境管理を行っていた。温室内の気温を一定に保ち、定期的に水分を与え、日照時間を正確に管理する総合自動装置は、当時はかなり画期的な管理法と言われたそうだ。

 

花を愛でるオランダ文化を支えるIT

現在に至るまでその管理法は、改良を重ねながら用いられているが、生花の販売・流通に関しても、これまた然りである。それではここで「オランダの誇り」と称される、生花中央市場「フローラ・ホランド」を紹介しよう。ここは花の競売から運送まで全てがシステム化された生花の競り市場で、約4700人が働いている。オランダ国内だけではなく、ヨーロッパ、アジア、アフリカ、南米等の世界各国から輸入された花がここに集まり競りにかけられて卸業者の手に渡るのだが、その競りもITで実に快適に行えるという案配だ。

競りの様子

世界一の生花市場、フローラ・ホランドでの競りの様子。競り用時計が上部の表示板に掛けられている。落札された生花は、世界各国へと輸出される。

市場で使用されているのは、壁にかかる39個の、丸い大きな競り用時計。これにはそれぞれ花の種類が記されているので、買い手はどの競りに参加すればよいかが見てすぐにわかる仕組みになっている。バイヤーは、円形の競売席に座り、座席の操作ボタンから時計盤の取引に参加する。といっても買いたい花が、希望値段になったらボタンを押すだけ。そこで売り手がOKを出したら商談成立。各地から集まるバイヤーの評判も上々だ。現在では、遠隔競売システムによって、会場へ足を運ばないバイヤーでも競りに参加できるという。
ギネス記録によれば世界最大の商業施設になったフローラ・ホランド。予約すれば気軽に訪問可能で、その競りの様子を目の当たりに出来るのも、観光客にとっては魅力かもしれない。

毎年、1月下旬になると花屋の店先に並ぶ初荷のチューリップ。オランダの人々は、待ってましたとばかりに購入し花瓶に活け、早速、窓際やキッチンに飾る。暗く長い冬を過ごす人々の心に春を呼び込み、精神を自ずと活性化させる不思議なパワーを持つとされる花、チューリップ。誰かの家を訪問する時、誕生日、見舞い、そして、特に理由がなくても、チューリップの花束をそっと差し出すオランダ人たち。私のPCの横にも、今、オレンジ色のチューリップが飾ってある。この国花が、いかにして自宅までやってくるのかに、改めて思いを馳せながら、時を忘れて眺め続ける私である。
なぜ、人間には花が必要なのか?とオランダ人に問えば、必ずこういう返事が彼らから戻ってくるだろう。
「ソファやランプと同じく、生活を楽しむ人間にとって、なくてはならないインテリア、それが花だから」。

特派員プロフィール

澤野 禮子(さわの・れいこ)
在蘭12年のフリーライター、ジャーナリスト。政治経済問題・衣食住・観光・芸術からエンタメに至るまで、オランダの最新情報を各メディアに発信中。

Top of the page

月刊誌スタイルで楽しめる『COMZINE』は、暮らしを支える身近なITや、人生を豊かにするヒントが詰まっています。

Copyright © NTT COMWARE CORPORATION 2003-2015

[サイトご利用条件]  [NTTコムウェアのサイトへ]