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世界IT事情 ITを通じて世界の文化を見てみよう! 第14回 中国、上海発
「ドラゴンの国の子供達、ITの海を泳ぐ」
パソコン抜きには始まらない学生生活

「お母さん、パワーポイントどこにある?」
これは2002年、娘がまだ小学4年生のある週末、パソコンの画面を見ながら私に言った言葉だった。
「パワーポイント?パワーポイントで何するの?」
「うん、語文(国語)の宿題でクイズを作らないといけないんだけど、それをね、パワーポイントで作って行かないとだめなの」

パワーポイントは上海の学生の必須アイテム

パワーポイントは上海の学生の必須アイテム。授業での発表に使われる。

私は驚いた。使い方は学校で教わったから、ソフトがどこに入っているか教えてくれれば良いと言う。ところが私が日本から持参したパソコンにはパワーポイントなんて入っていない。慌てて夫に聞いてみると、中国で手に入れた彼のコンピュータにはちゃんと入っていて、でも本人はその存在すら知らなかった。
調べものをインターネットで探すことや、ワード、エクセル、パワーポイントを使うのは当たり前、時にはフォトショップでポスターを作って来なさいという宿題も出た。当時我が家の二人の子どもたちは共に私立の学校に在籍していたので、こういうことは経済的余裕のある家庭の子女が通う私立ならではの事なんだろうとばかり思っていたが、そうではなかった。後に娘が公立の学校に転校したが状況は同じ。皆の家のパソコンには一体どれだけのソフトが標準装備されているのだろうかと首を傾げるばかりだった。
今や中高生の宿題は「U盤(中国語でUSBメモリ)」に入れて提出するのが大前提。与えられる課題もプリントではなく共同メールボックスから各自取り出して確認するところが増えている。山ほど出る宿題が一人でこなせない時には友だちと「QQ」でデータをやりとりする。宿題に疲れた時には、これでチャットをしたりゲームをしたりしながら息抜きすることもある。「QQ」は中国最大のシェアを誇る国産インスタントメッセンジャーソフトで、遊びでも仕事でもフルに活用されており、携帯電話やパソコンには標準装備されているものが多い。
これだけパソコンが生活に密着しているので、それまで実施されていた小中学生向けの情報処理テストも時代にそぐわなくなり2007年に廃止されるに至った。ちなみに娘は最後の年の受験者となったが、その内容はあらかじめ用意されている素材を使用してフロントページでホームページを完成させることで、普段パソコン操作に慣れている彼らは、そのソフトには数回しか触れたことがないにもかかわらず、難なく仕上げてしまったようだ。

一方、パソコンで学校と繋がっているのは子どもたちだけではない。教育熱心な親たちがいち早く知りたいものは子どもの定期テストの成績だ。子どもたちの勉強の負担を軽減しなければと皆が口を揃えて言う割にはいまだにテストの点数の存在は絶対で、それまでは結果の通知を待ちきれない親が学校に電話をかけることも珍しくなかったが、現在多くの学校ではオンライン化して即時に子どもの成績を確認できるようにしている。各種ポータルサイトにある教育系の掲示板では学校の情報交換に余念がない。

 

それでも達筆な手紙、暗算だってお手のもの

こうして見ると、すべての勉強が機械に向かって行われているように思えてくるが、昔ながらの学習方法も健在だ。小学校においては「読み書き計算」の宿題が毎日のようにある。国語、英語ともに暗誦・書き取りと、「口算(コウスワン)」と呼ばれる暗算の宿題がそれだ。
国語は3年間に2000文字を学習しなければならない(2006年度までは2年間)。この宿題を時々手伝うも、親の私が読めないような難しい言葉がたくさん並んでいて逆に「これは何て読むの?」と子どもを質問攻めにしてしまう始末。パソコンが普及して「読めるけれど書けない」という子どもが世界的に増えているが、ここでは文字をしっかり書かせる。学校のノートはA5判よりやや小ぶりの小さなノートなので、すぐにいっぱいになってしまう。

口算の練習本と関数電卓

口算の練習本と関数電卓。開いてあるのは小学4年生のもの。関数電卓はCASIO製。

「口算」はだいたい5分程度の時間内に30問程度をこなさなければならない。例えば1年生なら100までの数字の繰り上がり繰り下がりを含む加減算が、5年生ともなると「9544.8÷8.2÷9.7」などという、大人なら迷わず電卓を叩きたくなるような問題が登場する。
ペン習字も、2007年から中学生の市の卒業試験において、手書きの答案がオンラインで審査されることになってから見直されるようになった。乱雑な文字だとスキャンした時に文字が潰れて判読できなくなり、減点の対象となるからだ。

古きものも新しきものも、良いと思うものはどんどん呑み込んで消化し、モノにしていく。そんな上海ならではのたくましさは、こんな教育現場にも綿々と息づいているのだ。

特派員プロフィール

燕洋子(いえん・ようこ)
1985年に無謀な上海一人旅をしたことがきっかけで2002年より上海在住。メインはおかん業、時々書き物屋、嫁はん業はサボりがち。サイト『我愛上海。我愛大阪。我愛我家。』。

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