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世界IT事情 ITを通じて世界の文化を見てみよう! 第21回 カナダ、バンクーバー発
「市民の足、世界最長の無人IT電車『スカイトレイン』」
駅員もいない、改札もないリニアモーターの先端交通機関

バンクーバーの交通手段といえば、海の上を走るシーバスや路線バス、それにスカイトレインだ。中でも、スカイトレインは運転手不在のITを利用した無人運転電車として、スタート時には国内外の注目を集めた。1986年にバンクーバーで行われた国際交通博でカナダのコンピュータ制御技術と鉄道の製造技術を世界にアピールするために、大量交通機関のモデルとして完成されたと言われており、2009年1月現在、世界最長距離の無人運転電車だ。最高時速90キロで走るスカイトレインは、バンクーバー市の中心から郊外のバーナビー市などへ通じる約49.5キロを結ぶ交通システムで、一日に約16万人〜18万人が利用する市民の重要な足となっている。

地下

バンクーバーの中心市街地にある駅は地下鉄のような作りになっている。

この無人運転電車のスカイトレインには、リニアモーターカー方式が採用されている。ほとんど揺れることがなく滑るように走り、急カーブでも快適で安心。ダウンタウンなどの中心市街地では地下鉄として、郊外に向けては高架鉄道として建設され、車両は2両か4両で編成。名前のごとく空を飛んでいるように素早く静かに動く。コンピュータ制御による完全な自動運転で、3〜5分程の間隔で電車が次々にやってくる。あまり時間を気にしないカナダ人の性質もあって、通勤などで混み合う時間帯でも焦らずにのんびり、次の電車を待つ人が多い。ドア付近で押し合いへし合いなどという光景を見かけることはなく「お先にどうぞ」と、譲り合う姿すら目にする。まだ車両に余裕があるとばかりに体をねじ込む自分に、日本人を感じる瞬間だ。
ホームにある電光掲示板に路線名と行き先が交互に表示され、駅の発車アナウンスなどがないのも何となく「機械」っぽい気がする。コンピュータ制御で、一定の時間が経てばドアは自動的に閉まってしまう(人やモノを感知する仕組みは、もちろん備わっているが)。各駅には、エスカレーターやエレベーター付近、通路やホーム、プラットホームなど平均して23台のビデオカメラが設置され、セキュリティにも余念がない。

現在、市内の交通渋滞解消と2010年に開催される冬季オリンピックのため、スカイトレインの路線延長など交通システムの強化が行われており、2010年までにはバンクーバー国際空港と市内を結ぶエアポートラインやオリンピック村近くまで駅が建設される予定だ。そのため、スカイトレインが通る周辺地域の住宅価値が上がり、人気の物件となっている。バスを乗り継いでしか行くことができなかった場所へ、着々と市民の足となるスカイトレインが進出し、街も更に勢いづくだろう。

もう一つスカイトレインの忘れてならない素晴らしい点といえば、体の不自由な人も一人で利用できるように工夫されている所だ。電車内や駅構内はバリアフリーになっていて、全ての駅にエレベーターが設置されている。構内には段差などもなく電車とホームの間も狭く安全だ。

 

信頼のもとに成り立つ無人乗車システム

電車の中に運転手がいないだけではなく、ホームや改札にも駅員がいないため、初めてスカイトレインを使う人は一瞬、戸惑う。駅には自動券売機が設置され、各自で切符を購入して、そのままホームへ進んで乗車となる。改札もない、距離別に1〜3ゾーンで運賃が変わる、まれに巡回員が検札に回って切符をチェックする等々、初めて乗った時は、勝手が分からず戸惑うのだが、親切に声をかけてくれる人がいるのもまたカナダ人の余裕かも。慣れてしまえばなかなか便利なシステムではある。

Fare Zone

改札はないので、Fare Zoneエリアを過ぎる前に切符を購入しなければならない。

たまに切符の購入方法を理解していない人と巡回員がもめている光景を目にすることがある。チケット不所持に対する罰金は約200カナダドル(1カナダドル75円換算で約15000円)。「知らなかった」という乗客と、「罰金を支払うように」という巡回員の言い合いになるのだが、すぐに納得して罰金を払うカナダ人はあまりいないところが、日本と違うところだ。多くのカナダ人は、何はともあれ、まずは理由や意見をはっきり伝え説明する。巡回員によっては言い分を受け入れるらしく「じゃあ、今回は50ドル(同約3750円)にしておくから」と割引してもらった(!)知り合いもいる。日本ではちょっと想像がつかないが、ルールがあるようでないような罰金のシステムがカナダの臨機応変な国民性を表しているような気がして面白い。

「ITを利用した無人運転電車にこだわっての改札なしというシステムなら、巡回員を使ってたまにチェックするという方法をとらず自動改札機を作れば良いのに」とカナダ人の友達に言ったことがあるが「信頼のもとに成り立つ乗車システムなんだから」という答えが返ってきた。この時代に「信用」で成り立つという乗車システムも悪くないかもしれない。

特派員プロフィール

山下敦子(やました・あつこ)
カナダ在住フリーランスライター。地元新聞社でインタビュー記事を執筆、日本のメディア『イングリッシュ・ジャーナル』『朝日新聞(ウェブ)』 『MOM』など、雑誌やウェブ、ラジオなどでカナダの情報を発信。
個人ウェブサイトwww.geishaonthego.comで、カナダのトレンドや裏ネタを更新中!

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