ナビゲーションを読み飛ばすにはここでエンターキーを押してください。
一覧に戻る
COMZINE BACK NUMBER
世界IT事情 ITを通じて世界の文化を見てみよう! 第23回 アルゼンチン、ブエノスアイレス発
「国を行き来して自分仕様の創作活動を見出すアーティスト達」
人はなぜ、ブエノスアイレスに集まるのか?

私自身もITがもたらす恩恵を活かし、ワーク・ライフ・バランスを取っている一人だと自負しているが、ブエノスアイレスにいるとITの恩恵を最大限に活用して場所と時間に縛られずに自分仕様の働き方をしている人達をよく目にする。その一類がブエノスアイレスとNYを行き来しているアーティスト達。NYに拠点を置きながら、創作活動はブエノスアイレスで、というパターンだ。
今までさまざまな国で生活をしてきた私だが、ブエノスアイレスほど海外から、しかもアーティスト達が足しげく「通う」都市はなかった。一体ブエノスアイレスの何が彼らを惹きつけるのか?

サンテルモ

タンゴで用いられる楽器「バンドネオン」演奏が街中で聞けるのはタンゴ発祥の地ならではの醍醐味。

まず一つには地理的な利点が挙げられるだろう。NYとブエノスアイレスは赤道を挟み南北に位置しながらも、経度にはさほど差が無く、時差はたったの2時間。そして直行便がある。つまり物理的にアクセスしやすい上、治安が良い。何より、物価が安い。2001年のデフォルトで現地通貨価値が下がって以来、欧米と同様の質の高い生活が、現地の何分の一という価格で可能になった。NYではとても借りられない大きなスタジオも、ここでは金銭的にアクセス可能というわけだ。

それだけではない。ブエノスアイレスには、ヨーロッパ風の街並みと茶目っ気たっぷりのポルテーニョ達、彼らの文化視点の高さ、そして政府の理解と援助がもたらす文化的行事の多様さなど、「アートを生む街」の異名を裏切らない街の土壌があるのだ。
例えば「ギャラリーナイト」は、地域の美術館が定期的に、夜間に無料で開放される(各ギャラリーではシャンパンサービスまである!)イベント。先日までは「フラメンコ週間」と称し、フラメンコ関係の行事が目白押しだった。学校の校舎は夕方6時から一般に開放され、「文化センター」となる。そこでは誰でも絵画、写真、演劇や楽器、サルサやタンゴなどのクラスが無料で受けられる。ブエノスアイレスでは、多様な文化に触れる機会があちこちに転がっている。

 

自分らしい働き方を可能にするIT

NYから3〜4ヶ月ごとにブエノスアイレスに来るレスリーは「ブエノスアイレスに居ること自体が創作活動にインスピレーションを与えてくれる」と言う。外国語が得意ではない米国人にとって、英語を流ちょうに話し、外国人の扱いに慣れているポルテーニョは「外からの客」に疎外感を与えないのかもしれない。

青空アート

ここには「アートは特別なものではなく生きることそのものだ」と教えてくれる土壌がある。

レスリーを始めとするアーティスト達は、ノートパソコン持参で、定期的にブエノスアイレスに来ては大きなスタジオを借り、創作活動に入る。FacebookやYouTubeでスタジオの様子や作品を顧客にアピールすることで、ギャラリー・ディレクターやキュレーターなどからのコンタクト、展示会への招待にもつながるとか。グループ展へのコラボのお誘いも今や「ネットでの作品を見て」と問い合わせがある。インターネット上で作品を発表・販売し、自身のコミュニティーでファンを作る彼ら。作品に興味をもった人はホームページで直接作品を購入。過去にコンタクトのあった顧客とは、折りに触れメールを送ることで「関係」を維持する。
更にブエノスアイレスでは、こうした活動を可能にするインターネット環境が整っている事も重要なポイントだ。多くのオフィスや家庭で光ファイバーが引かれているし、カフェで無線LANが使えるところも多いので、短期滞在者にとっては、日本よりも便利かもしれない。
ブエノスアイレスという土地柄とIT化の恩恵による働き方の多様化が生み出したこのワーク・バランスの形。慣習や国境にとらわれないバリアのなさがあってこそ成せるスタイルだ。ITの助けを借りて「自分らしい働き方」を求める個人に、可能性に溢れた扉を開いている風景がここにもある。

特派員プロフィール

大田朋子(おおた・ともこ)
アルゼンチン ブエノスアイレス在住。一生を通して世界中の様々な国に住みたいと「世界が拠点な生き方」を実践。情報誌「TCV Asia」にコラム連載中。30代女性の恋愛を描いた哲的学恋愛小説「Dear Beautiful」も好評発売中。趣味はアルゼンチンタンゴ。世界が拠点な生き方ブログ:http://kaigai.kaigai.her.jp/

Top of the page

月刊誌スタイルで楽しめる『COMZINE』は、暮らしを支える身近なITや、人生を豊かにするヒントが詰まっています。

Copyright © NTT COMWARE CORPORATION 2003-2015

[サイトご利用条件]  [NTTコムウェアのサイトへ]