オランダは、欧州諸国の中でも初等科教育に熱心な国だ。義務教育は５歳からだが、小学校へは４歳から入学できることになっており、ほとんどの子供たちは４歳の誕生日当日が、初登校日になる。入学式こそないものの、初登校と同時にバースデイ・パーティーを祝ってもらえるという特典付きなので、子供たちは４歳になるその日を心待ちにしている。

英語の授業も、コンピュータを使って楽しく、ゲーム感覚で。会話や聞き取り、書き取りも同時に行えると生徒たちからも大好評。

教育に積極的な国というのは、IT学習をいち早く取り入れている点にも表れている。インターネットの普及率が90%を超えるオランダでは、７歳に当たる第３学年から、コンピュータを使った授業が正式にスタートする。
最初は、コンピュータに親しむために、オランダ国営放送の子供番組のホームページにアクセスするなど、先生の指導に従って、コンピュータで学ぶ…というよりも遊ぶ、のである。メモリー・ゲームやパズル、ビンゴなどクラスメートと一緒にわいわい騒ぎながら行うことで、コンピュータそれ自体に興味を持たせるのが授業の目的だ。
本格的にコンピュータを使うのは、８歳児の第４学年から。アニメサイトや子供向けニュースのサイト、あるいはYouTubeまで利用するカリキュラムを組んでいる小学校もある。更に９歳から12歳くらいでは、クレイアニメ(粘土を使用したアニメーション)や、短い映画を制作して、学校のホームページで発表し、オンライン投票をしてもらうといった、文字通りコンピュータを駆使しての授業が行われる。こうしてほぼ10歳になるまでに、全員に一通りのコンピュータ操作を習得させていく。
更に最近、特に注目を集めているのが、外国語の授業だ。オランダでは、11歳から英語が必須科目だが、カリキュラムには、英語圏の子供たちとチャットするという授業が組み込まれている。語学はまず会話から、というオランダでは、生きた英語を楽しみながら習得できると、子供にも親にも大好評だ。

こんな風に早い時期にIT教育が行われるのを知ると、「オランダでも子供は大変なんだ」と思われるかもしれない。だが、そういうわけでもない。オランダでは、８年生、つまり12歳に初等教育を修了し、その後は一般的な勉強を続けるのか、専門的な職業学校に進むのか、それとも研究職に就くための学校に行くのかを選ばなくてはならない。

コンピュータの初歩を本格的に学ぶ、４年生（８歳児）のクラス。最初は、先生が示した画面を見ながら、キーボードの使い方を学ぶ。

一方で、先述したように、インターネットの普及率が90%というこの国では、どんな職業に就くとしてもコンピュータの基本的な操作は必要なスキルだ。だから初等教育で教えておきましょう、ということのようだ。オランダの教育や就職事情は、日本とはまったく異なり、塾も、センター試験も、大学受験もなく、勉強が出来る、出来ないも就職には一切関係がない。その代わり、自分の好きなことで得た"資格"を持っていることが就職の際には重要だ。例えば、オランダにはDJになるための資格というのがあり、これを得るには、れっきとした国家試験を受けなくてはならない。しかし、この資格を取れば、どこのクラブでも雇ってもらえる上、音楽関係会社に就職する際にも非常に有利だ。コンピュータのスキルを早いうちから学ぶから、「詰め込み」学習かといえば、そうではなく、あくまでも道具というところがオランダらしい。
現在５歳の息子は、私などよりもずっとコンピュータの扱いが上手い。押入れにしまいこんであった古いコンピュータをおもちゃ代わりに与えたら、いつの間にか初歩的なプログラミングをマスターしてしまい、親の私が舌を巻いたほどだ。オランダの子供たちは息子同様、コンピュータの授業を毎日心待ちにしている。彼曰く「コンピュータは、教科書にも、黒板にもなる！」と大喜び。それでも彼にとってコンピュータは、道具以上のものではなく、学校の成績を気にすることもなく伸び伸びと生きている。そんなオランダの教育現場で、どんな風にコンピュータを使っていくのか、授業の発展が楽しみだ。