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世界IT事情 ITを通じて世界の文化を見てみよう! 第30回 アメリカ、ロサンゼルス発
「学生が大学教授をABCで評価するサイトの到来」
大学教授が学生に評価される時代

新学期、どの教授の授業を選ぶか迷うのは日本もアメリカも同じ。すでに決まっている先生から学ぶ日本の中学校や高校などと違い、大学では、心理学一つとっても、面識もない何十人もの教授の中から選ばなくてはならないからだ。だからこそ、教授達に関する情報収集が大切になってくる。

Cypress collegeのダンスの教授、Arlene Brackett

ダンス担当の先生が、学生のコメントと共にAと評価された実際のサイト内。これまでに使用した教科書の情報などもリストされ、更なる充実を図る。

そんな背景からアメリカで登場したのが「良い教授には報酬を。悪い教授には落胆を」をモットーに掲げる、大学教授を評価するウェブサイト「WhoToTake.com(どの教授の授業を取るべきか)」。学生同士の口コミで広がりを見せる同サイトは、現在、年間10万人以上が利用し、利用者は増加の一途を辿る。
サイト創設者の一人、ポール・シアンシさんも「教授を評価したリストの制作は、最初は自分のために行っていました」と語っている。
このサイトは、すでに授業を取ったことのある先輩たちから聞いた教授の評価を掲載することを目的として、2001年に学生を含む運営スタッフが立ち上げた。2003年に、一度はサイト運営を断念したが、2004年に再スタート。現在、同サイトにはアメリカ国内の5011校の大学から、約85万人の教授の評価が掲載されている。
学生が評価する方法は次の通り。ウェブサイト上には、教授のリストが評価とともに記載されている。その中に自分のコメントを送信できる箇所があり、A+からFまでの13段階のなかから適切だと思われる評価を選んでクリック。コメントをつけて送信する。すると、アドミニストレーション・システムのフィルターにかけられ、信憑性のあるものだけが掲載されるという仕組みだ。
不適切な言葉はフィルターにかけた時点で削除される。また、掲載されたコメントの送り主は分からないので、教授も学生も気まずい思いをすることはなさそうだ。    
「これまでの教授の中で、最も知識がある」「この教授の授業は、時間の無駄」「時間管理が全くできない」「教え方がうまく、授業が楽しい」。このように、教授に対する学生からの率直な意見が記載されており、講義を選択する際の参考になる。
その他「授業の質が高い教授を知りたい」「他の授業がハードだから、息抜きになるような授業が取りたい」「フルタイムで仕事をしているので、エッセイやレポートなど課題の少ない授業が取りたい」など、学生の「ニーズ」に合わせて教授を選べるというのも特徴だ。

 

学生に役立つ評価システム

それでは、評価された教授のほうは、このサイトをどのように評価しているのだろうか。
「このサイトの評価システムは、学生の役に立っていると思います」と言うのは物理学教授のマット・コビルさん。創立メンバーのシアンシさんによると、他の教授も同じような意見だそうだ。実際、同サイトに掲載された教授の評価リストを定期的に閲覧する教授も少なくない。同サイトについて、授業で学生達に話すこともあるという。「学生のニーズが分かるというのは、良いですね」と話すのは、経営学を教えるパトリシア・キッシェル教授。

ロングビーチ・シティ・カレッジ

全米に名を知られている看護学部で有名なロングビーチ・シティ・カレッジ。半数以上の教授リストに評価が記載されている。

中には「評価がフェアではない」という理由から、掲載された評価を削除して欲しい、と申し出る教授もいる。その際のコメントは削除したが「苦情はこの5年で一握り」とのこと。
しかし、インテリアデザインの授業を担当する大学教授キョウコ・ミヤムラさんのように「学生の評価に興味はありません」と関心を示さない声もある。また、ある教授からは「情報の正確性を示す根拠がなく、サイト管理者は情報に対する責任を取っていない」という辛口コメントも。
それに対するシアンシさんの意見はこうだ。「すべての情報の正確性を確認することは不可能です。しかし、あくまでも学生の支援を目的にしたサイトであり、教授の評判を落とすことを目的としたものではありません」。
大半の教授が同意しているのは「学生たちにはこのサイトだけが教授を正当に評価する唯一のツールではない、ということを踏まえた上で使用してほしい」ということだ。
今後は、教授に関する情報の充実を目指すという。教授の担当科目、学生からの評価やコメント以外に、教授の連絡先、ウェブサイトを掲載する。
また、学生から人気がある教授に限り、授業初日に配る講義の概要を掲載したり、出席日数やテストの回数、課題の提出が全体評価のどのくらいの割合を占めるかなど、授業の概要を記載する予定だ。
更には「今後、教授評価のあり方に関してどのように考えているのか、国内にいるすべての教授から意見を伺いたいと思っています」と言うシアンシさん。
それが実現すれば、公平性や情報の深さから言っても、ますます学生の役に立つサイトになることは間違いないだろう。日本では、教授と学生には上下関係があり、評価するのは教授という図式がある。このサイトに象徴されるような学生と教授の関係は、非常に興味深い。

特派員プロフィール

大山真理(おおやま・まり)
ロサンゼルス在住。東京FM、FM802などでラジオレポートを行う。『夕刊フジ』、『朝日新聞(ウェブ)』、『日経トレンディ』、『日経ヘルス』など各種媒体に健康、流行、旅行、インタビュー記事などを執筆。『30都市徹底ガイド(ロサンゼルス担当)』(JTBパブリッシング刊)、訳書に 『「もう頭にきた」と思ったときに読む本』など。テレビ番組の取材コーディネート、通訳にも携わる。

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