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世界IT事情 ITを通じて世界の文化を見てみよう! 第32回 アメリカ、ワシントンDC発
「世界の政治の中心で住民は徹底的にインターネットを使う」
地域の人の心をつなぐインターネット

ホワイトハウスから、車で約20分の我が家は、ワシントンから川を隔てた隣町にあり、古い家が並ぶ。昔から住んでいるというシニアが少なくないコミュニティーだ。でも住民同士の連絡手段には、メーリングリストが大活躍。「ベビーシッターを探しているんだけど、おススメの人いる?」「うちの猫が昨日から見つかりません。見かけたら教えてください」「不要になった本棚を家の前に置いておきます。欲しい人は取りに来てください」等々、MLに登録していると、頻繁にメールが来る。こうした問い合わせに対する返信も素早く「ありがとう!」「助かりました!」などのお礼メールも届き、コミュニティーの温かさを感じる。

Lotsa Helping Hands

困った人を助けるコミュニティー作りのウェブサイト”Lotsa Helping Hands” 。カレンダーに、必要な手助けの内容がリストアップされている。ある日にちをクリックすると、具体的に場所、時間、内容が掲載され、自分ができる内容であれば、そこで登録できる。カレンダーは、数ヶ月先も記録できる。

「凄腕大工さん」「水道管のトラブル発生には」など、今後役立ちそうな内容は、私もすぐにメールを保存。お陰で、引っ越して間もなく地域情報に詳しくなった。でも、毎日複数のメールを受けるのは面倒!という人には、ダイジェスト版の選択肢もあり、欲しいときに、欲しいだけ情報が得られるようになっている。

また、既存のコミュニティーだけでなく、緊急時に助け合うコミュニティーを作るのにも、インターネットが大きな役割を果たしている。つい最近、娘の通う幼稚園で、ある園児の母親が膝を痛め、運転はもちろん、歩くこともできない状態になり、その園児の幼稚園や習い事教室への送り迎え、更に小学生のお姉ちゃんの学校の送り迎えなど、一日に複数の手助けが必要となった。しかし、膝の回復には1ヶ月以上かかると見られ、ずっと同じ人に世話になる訳にはいかない。しかも、複数の人のスケジュールとつき合わせて、毎回連絡するのも、それだけで大変な作業だ。そこで彼女の親友が、ウェブサイトを利用して、幅広くボランティアを集めた。
ウェブサイトの名前は、”Lotsa Helping Hands” 誰かが病気になったりして、長期にわたって普通の生活が難しい場合、友人や知人に呼びかけて、助けていこうというシステムである。使用料は無料。まず、多くの場合は困っているAさんの親友Bさんが発起人となってサイトに登録し、具体的に助けが必要な内容をリストアップ。その全てが、カレンダーに時間や場所とともに示される。そしてBさんは、Aさんの友人にボランティアを呼びかける一斉メールを送信。メールを受信した人達は、カレンダーをみて、自分ができそうな内容があれば、サインアップするという仕組みだ。私の場合、園児の送り迎えなどを担当した。さまざまな用事を広く呼びかけることで、誰もが無理なく手伝えるメリットに、参加した人たちも喜んでいた。このサイトでは、サインアップした人に「明日のボランティアよろしく!」という直前の確認メールや、「有難う!助かりました」というお礼のメールも自動的に送信されるようになっていて、困っている本人が煩雑な連絡に追われないよう気配りされている。

 

行政もインターネットを最大限活用

インターネットを巧みに使っているのは民間だけではない。ホワイトハウスの庭で例年、春に行われるイースターイベントのチケットも、今年は初めてインターネットを使って配布された。

WH_eggroll

4月に行われたホワイトハウスの庭でのイースターイベント。インターネットでチケット(無料)を手にした子供達が全米から集まった。カラフルに色づけされた卵を、スプーンで転がす「エッグロール」が毎年行われる。

これは、一年に一度、ホワイトハウスの庭で遊べて、時間によっては、大統領に会える貴重な機会とあって、毎年、超人気の催しである。去年まではワシントン近郊に住む人が、前日から長蛇の列を作って、早い者勝ちでチケットを入手していた。ところが今年は、オバマ大統領がワシントン以外の子供達にも楽しんでもらいたいと、インターネットを使って、広くアメリカ全土から希望者を募ったのである。もちろん競争率は急激に高まり、時間を決めて散発的に配布されたものの、2万枚以上のチケットは、あっという間になくなった。

こうしたインターネットの浸透は、国政のみならず地域の行政にも及んでいる。息子が通う公立の小学校では、電話連絡網というものが存在しない。悪天候による学校の休校情報はメールで送られてくるし、新型インフルエンザの予防接種が、いつ、どの学年に行われるか、という内容も、地域の役所からお知らせメールが送られてくる。学校のランチはカフェテリアで生徒が買うのだが、そのお金もオンラインで入金することができ、生徒が現金を学校に持っていく必要がない。地域のスポーツ、文化教室も、インターネットの登録が当たり前だ。
情報に敏感な住民が多いワシントン。これでもかと言わんばかりのインターネットの使い方を見ると、ワシントンに住む人々の、社会への参加意識の高さも見えてくるようだ。

特派員プロフィール

笹栗実根(ささぐり・みね)
1999年、テレビ局のワシントン特派員としてアメリカへ。以後、結婚退職してフリーライターに。『asahi.com』(webサイト)、『教室の窓』(東京書籍)、『エコマム』(日経BP)などにアメリカに関する原稿を執筆する他、FM802でラジオレポート。

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