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世界IT事情 ITを通じて世界の文化を見てみよう! 第33回 オーストラリア、ブリスベン発
「現金厳禁? どこへ行く高速道路の料金徴収」
料金所の全レーンがETC化!? 「一般レーン」が消えた

クイーンズランド州の州都ブリスベンは100万都市。周辺都市を合わせた「クイーンズランド東南部」は人口300万人に迫る勢いだが、実は鉄道網はそれほど発達していない。郊外から市の中心部に向かう路線はいくつかあるが、環状線のように郊外と郊外を直接結ぶ路線は皆無。公共交通機関はバスしかない。人口約60万人のゴールドコーストに至っては、ブリスベンからの路線が郊外までは来ているが、市の中心部には入ってこない。というわけで、市民の足はもっぱら自家用車となる。

パシフィックモーターウェイ

ブリスベンとゴールドコーストを結ぶパシフィックモーターウェイ。ほとんどの区間が片道4車線で走りやすい。

卵が先か鶏が先かは分からないが、こうした車社会のクイーンズランド州南東部では高速道路はほとんどのところが無料。一部の区間(主に新設された道で、建設代金に充てるため)では、通行料が徴収されるが、せいぜい日本円にして乗用車で100〜200円程度だ。地球に優しいかどうかは疑問だが、極めてユーザーフレンドリーな料金設定と言えよう。
ところが、だ。日本のETC同様のシステムであるe-tollが数年前に採用されたが、2009年7月には料金所のすべてのレーンがこれになった。かつては、徴収ゲートで係員に現金を手渡したり、巨大なじょうごのように大きく口を開けた徴収器にコインを投げ入れたりしたのだが、それができなくなった。「渋滞緩和のための画期的手法」と政府は喧伝。確かに、通勤などで毎日利用する人には、非常に好評だ。
40代のビジネスマンであるジョンソン氏は、「5分から10分程度、通勤時間が短くなりましたよ」と喜ぶ。「たったそれだけの短縮でも、やっぱりうれしいものです。早めに帰宅もできますから。それに、一人の時間は毎日10分程度だとしても、利用者が一日何千人もいるわけですから、合計するとものすごい効果と言えますよね」。

 

利用者数減は生みの苦しみ? 事前通達の不足?

ところが高速道路の利用は減っている。ゲートウェイブリッジという橋の利用車台数は、2008年8月は93,401台だったのに対して、全レーンe-toll化された直後の2009年8月には91,708台と、約1700台減少。ローガンモーターウェイという自動車専用道でも115,512台だったのが、一年後には114,716台と、約800台の減少だ。

ゲートウェイブリッジ

有料区間の一つ、ゲートウェイブリッジ。その下は豪華客船もくぐれる(写真はクイーンズランド州政府観光局提供)。

微減と言えば微減だし、世界不況の影響もあるだろう。だが、別の理由もあると考えられている。「時々しか使わない人が、料金の支払い方が分からなくて(または、登録者以外は通れないと勘違いして)、別のルートを使っている」というものだ。
もちろん、ヘビーユーザー向けのETC的な事前登録システム以外にも、「利用後3日以内にインターネットでクレジットカード決済」といったオプションもある。e-tollにカメラが設置されていて、コンピューターシステム上に記録されるので、当該ウェブサイトを訪れ、自分の車のナンバープレートやクレジットカードの会員番号を打ち込んで、料金を支払うのだ。前述のように、その額、わずか100〜200円。日本円にして数百円程度のちょっとした買い物でもカードで支払う「クレジットカード社会」オーストラリアならではの決算方法と言えるかもしれない。だが初めての制度なのに、どのような方法があるのかを伝えるキャンペーンはそれほど大々的には行われなかったため、戸惑う人も多く、利用者は少しだが減ったと考えられているのだ。場当たり的と言えなくもないが、「シミュレーションに時間をかけるよりは、とにかく始めてみて、試行錯誤していこう」というのがオーストラリア流だ。
そのうち皆が慣れてくれば、利用者数は元に戻るだろう。かつて日本でも、バスから車掌さんが消えてワンマンカーになった際も、駅から切符売り場が消え自動券売機だけになった時も、まごついた方がいたという。だが、今では年配の方だってSuicaなどのICカードを使いこなしている。便利な新制度の導入に、多少の「渋滞」はつきもの。要は慣れの問題なのだろう。
でも、いっそのこと、完全無料化してはどうだろう。日本のように走行距離によっては数千円どころか数万円にもなる高速道路通行料を無料にするのは慎重に検討すべき点もあるとは思うが、こちらは100円とか200円の話。それほど「高速」すぎる改革ではないはずだが…。

特派員プロフィール

柳沢有紀夫(やなぎさわ・ゆきお)
1999年にオーストラリア・ブリスベンへ家族移住。2010年2月初頭に『世界ニホン誤博覧会』(新潮文庫)を出版。その他、『ニッポン人はホントに世界の嫌われ者なのか』(新潮文庫)、『日本語でどづぞ』『困った地球人』(共に中経の文庫)、『極楽オーストラリアの暮らし方』(山と渓谷社)、『オーストラリアで暮らしてみたら。』(JTB)など著書多数。

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