

無料公共無線LAN「サンタ・マルタ・デジタル」が提供されていることを示す。これを利用するために、サンタ・マルタを訪れる人もいるという
自然美と都市美が入り混じる美しい都市、リオデジャネイロ。カーニバルにサッカー、そしてその美しい風景に魅了され、通年多くの観光客が押し寄せる。2016年には、五輪開催も決定している。しかし2009年に軍警察のヘリコプターが犯罪組織によって撃ち落とされたり、2010年8月に犯罪組織が国際ホテルに人質をとって立てこもったりというニュースに代表されるように、治安の悪さでもまたよく知られているのが現状だ。治安悪化を招く犯罪の多くは、ブラジル全体の経済的貧困と密接につながっており、現在政府、州、市、NGOなどが一丸となってさまざまなプロジェクトを推し進めている。その中でも、2010年11月に当選したばかりのルセフ次期大統領も強調する、機会の平等は第一課題であり、そのプロジェクトの一端を担うのが「リオデジャネイロ州デジタル化計画(Rio Estado Digital」だ。
「インターネットは、教育ネットです」と、プロジェクトを主催するリオデジャネイロ州科学技術委員会のアレクサンドレ・カルドーゾ委員長は説明する。プロジェクトは、無料の公共無線LANを、貧困層地区を中心に提供するもので、投資額は1500万レアル(約7億1900万円)。2009年に初めて貧困層コミュニティーに設置されて以来、現在リオデジャネイロ市の6つの貧困層地区、そしてリオデジャネイロ市郊外にも広がっている。「高度に情報化される今日の社会では、ネットへのアクセスは人々の生活を大きく変化させます。インターネットを利用して知識を高め、情報を選択できることで、さまざまな機会を得ることができます」とカルドーゾ委員長は、インターネットを、知識の民主化のための重要なツールと位置づける。ネットにアクセスできる人とできない人との違いをなくすことが最大の目的だ。

路上でネットに繋げる、ファビオ・ソウザさん。サンタ・マルタではこのような光景をよく眼にする。シグナルが自宅に届かないのは残念だが、無料のシステムに文句はないという
サンタ・マルタは、リオデジャネイロ市中心部に位置するファベーラと呼ばれる貧困層コミュニティーの一つで、マイケル・ジャクソンのミュージックビデオで有名になった場所でもある。過去には麻薬組織の活動が活発だったが、その後2008年に州政府が開始した、ファベーラでの麻薬組織追放政策のモデル地区となり、現在は銃撃戦もなく、住民は穏やかな生活を送っている。
そんなサンタ・マルタで、無料でインターネットに接続できるようになったのは、2009年3月のこと。貧困層コミュニティーで実施された「リオデジャネイロ州デジタル化計画」の第1号だ。
コミュニティー内で、IT関係の部品を販売する小さなお店を営むファビオ・ソウザさんは、ネットでニュースを閲覧するのを習慣にしている。「インターネットの回線を導入する余裕のない住民にとって、このプロジェクトのおかげで多くの可能性が得られるようになりました」と絶賛。電波が自宅まで届かないため、路上でノート型パソコンを開いているのだが、文句を言うでもない。シグナルが届きにくい場所では、アンテナを購入して使用する人も多いという。また、サンタ・マルタ住民協会では、導入以来、事務所にコンピューターを置き、現在は住民の提案や苦情もメールで受け付けている。このプロジェクトのおかげでネットにアクセスすることができるようになったのだ。
アンテナが故障するなど、日々問題も発生する。しかし設置当時に比べて州政府の対応は早く、利用者が増加傾向にあることからも、プロジェクトは成功と言って良さそうだ。現在までに、月に85万人がネットに無料でアクセスできる環境が完備された。2012年までに、リオデジャネイロ州全ての貧困層地区に設置される予定だという。そのほかにも州政府は、ネットを使用した長距離専門教育や、PC教室などを無料で提供している。「リオデジャネイロ州デジタル化計画」が始まって約1年。プロジェクトはスピードを上げて拡大し続けている。
特派員プロフィール
高橋直子(たかはしなおこ)
ブラジル、リオデジャネイロ在住。ライター、カメラマンとして日本の雑誌、新聞、サイトなどにブラジル情報を発信。メディア関係コーディネート会社、WaSabi JB Comunicacao ltdaの共同経営者でもある。ブログ→ブラジルをあそぶブログ」