
ペルー人にとって、コミュニケーション・ツールの筆頭はなんと言っても電話だろう。生来おしゃべり好きで人と人との距離が近いペルー人は、他人との会話を少しもいとわない。「初めての問い合わせだから、メールのほうがいいかな」という遠慮がちな感覚はなく、とりあえずなんでも電話で確認する。電話ならその場で判断できるし、なにより一番確実だというのだ。
ペルー人が電話を多用する習慣には、電話会社のサービスそのものが少なからず影響している。多くの固定電話契約プランでは、月額基本料金に予めかなりの通話料金が含まれているのだ。もちろん上限は設定されているが、月間で最大2,000分もの通話が可能な契約まであり、そのため「ペルーで固定電話同士の通話はタダ」と勘違いしている人もいるほど。毎晩恋人にラブコールでもするなら話は別だが、日常的な連絡やちょっとした問い合わせをする程度なら、基本料金内で事足りてしまうのだ。これなら「まずは電話」となるのも当然だろう。
そんなペルー人だが、やはりビジネスは別物。電話だけでなく、電子メールももちろん利用する。資料など大量の情報が簡単に添付できるだけでなく、「言った、言わない」のトラブルが避けられるというメリットもある。
また近年、首都リマを中心にスマートフォン利用者が急増しており、ネットへのアクセスはどんどん容易になってきている。あるネットリサーチ会社の調査によると、2013年1月時点でのペルー人のfacebookユーザは995万人超。なんとペルー総人口の約3分の1にも上るというのだ。決して「文字を打つ」という行為に不慣れな訳ではないはずなのだが…。
以前こんなことがあった。地方の旅行代理店にメールで問い合わせをした時のこと。さすがに客商売だけあってレスポンスも早く、交渉は順調だった。しかしいざ現地へ行ってみると、予約した内容がまったく違っていたのだ。
どうやら担当者は、こちらのメールをきちんと読んでいなかったらしい。提示した参加人数を取り違えていたのだ。あれこれ言い訳をしていたが、メールの履歴を辿るとやっと非を認めた。しかし「ここにこんなにはっきりと書いてあるのに、どうやって間違えるの?」という私の詰問には「だってメールだったから…」という意味不明の言い訳が。私は人数と日付部分のフォントサイズを極大に変え、なおかつ赤文字にしておいたのにと、開いた口が塞がらなかった。
後日このいきさつを知人に話したところ、予想外の反応が返ってきた。「どうしてメールなんかでやりとりしたんだい? 電話が一番早くて簡単なのに!」相手がメールを読んでいなかったことより、電話で問い合わせなかったことを非難されてしまったのだ。
どうやらペルー人にとって、メールという情報ツールは随分とまどろっこしいもののようだ。話好きで少々せっかちな彼らには、返事がいつ来るか分からないメールなど性に合わないのかもしれない。短いコメントと「いいね!」だけでリアルタイムに参加できるfacebookがことさらペルー人にウケるのも、十分うなづける話である。
原田慶子(はらだ・けいこ)
2006年よりペルー、リマ在住。フリーライターとしてペルーの観光情報からエコやグルメな話題など幅広く執筆、NHKを始め地方のラジオ番組にも出演。自身のブログでリマの日常を発信中。
http://www.keikoharada.com/